ファーウェイ

アメリカ・中国 コラム

中国のデジタル先進地域・深圳に拠点を置くファーウェイの野望とアメリカによる同盟国包囲網




米中間の対立はモノ中心の貿易戦争からIT技術のハイテク覇権争いへ本格化

2018年11月より、米中間の対立が貿易戦争として先鋭化しています。

その一貫として、特に際立って中国のファーウェイ(華為技術)に対する包囲網が世界中で広がっています。

2018年12月1日、ファーウェイの最高幹部の孟晩舟(もう・ばんしゅう)・最高財務責任者(CFO)が対イラン制裁に違反した商取引に関する詐欺容疑でカナダ司法当局に逮捕されました。

在カナダ中国大使館は「重大な人権侵害だ」は抗議し、中国外交部は即時釈放を要求しました。

ファーウェイはポーランドで逮捕された中国人の現地法人幹部をすぐに解雇

2019年1月8日、ポーランドの捜査当局は、ファーウェイの中国人社員(現地法人幹部)・王偉晶氏とポーランド人の元情報機関員の2人をスパイ活動を行った疑いで逮捕しました。

当局はファーウェイのポーランドの事務所などを家宅捜索し、関連の文書や電子データなどを押収しましています。

1月12日、中国の報道メディアは、ファーウェイはこの中国人社員(現地法人幹部)・王偉晶氏の解雇を発表したと公表しました。

中国外務省はポーランド政府に「この事件を法にのっとり、公正で適切に処理し、当事者の権利の保障と人道的な扱いを求めた」とのコメントを発表しました

ファーウェイ社は中国国家安全保障当局の代理として行動しているとの懸念が広がる中、事件から距離を置くことを示すかのように、王偉晶氏をすぐに解雇しています。

ファーウェイ本社の幹部がイランの不正取引に関与していたことが明らかに

その一方で、アメリカが捜査対象としていた2社とファーウェイが中東地域(イラン・シリア)で密接に関与していたことが発覚しました。

捜査の結果、実態の不透明な企業2社とファーウェイとの結び付きは、従来の想定以上に密接であることが明らかとなっています。

カナダで逮捕されたファーウェイの孟晩舟・最高財務責任者(CFO)は、

1.テヘランで営業している香港の通信機器販売会社スカイコム・テク社

2.モーリシャスで法人登記したカニキュラ・ホールディングス社

の2社と、ファーウェイとの関係について、それぞれ独立した関係にあると主張していました。

ところが、実際には、

α.イランとの決済を実行するよう国際的な銀行を欺いていた。

β.ファーウェイ社がこの2社を支配していた。

ということが、アメリカ当局の重点的な捜査や、関連文書を通じて分かっています。

さらに、

a.ファーウェイ社の幹部がスカイコム社のイランの責任者に任命されていた。

b.ファーウェイ社とスカイコム社がイランで開設した銀行口座は、中国人の個人3人が署名権を持っていた。

c.ファーウェイ社はシリアでカニキュラ社を通じて事業を運営していたと中東の弁護士が証言した。

という事実が露呈しました。

こうした2社との結び付きが判明したことで、ファーウェイ社にとってスカイコム社は単なるビジネスパートナーだとする主張は信憑性が薄れ、孟晩舟CFOにとっては明らかに不利な材料となります。

ここに見られるようにファーウェイ社の対応には、明らかなダブルスタンダードがあります。

Ⅰ イランとの取引に関する全情報を知る孟容疑者には擁護する姿勢を示し、釈放を求めている

Ⅱ  ポーランド現地法人に勤務していた王偉晶容疑者は逮捕を受けて、同容疑者を直ちに解雇

これは中国政府と機密情報の連携を取れる立場にある幹部と、単なる被雇用者として働く一職員との扱いの差なのでしょうか?

このままでは、アメリカも中国も一歩も譲歩しない可能性が出てきました。

一つ参考になる事例があります。

アメリカ・テキサス州ダラスの連邦地裁は、中国通信機器大手の中興通訊(ZTE)が2017年3月に課された猶予措置に違反し、対イラン制裁に絡む合意に違反したとして、ZTEは主要事業が停止する事態に陥りました。

中国メディアの報道では、

ファーウェイは、5G分野で主導権を握るよう努力しており、米国最大のチップメーカーと競争するための準備を進めている。

と報道されており、スマートフォンの出荷台数がアップルを上回っていることにも触れて「これらは、米国がファーウェイを脅威とみなす重要な要素になっている」と伝えました。

また、中国の短文投稿サイトである微博(ウェイボ)(中国版のツイッター)では、

1.米国はファーウェイのトラブルを探し始めた。

2.米国で5Gの市場を失うことになる。

3.通信設備で競争力を失った場合、ファーウェイはただのスマホメーカーになってしまう。

と明らかに米中間のハイテク戦争を意識した不安の声が上がっています。

2018年4月、中国の通信大手中興通訊(ZTE)は、アメリカから制裁を受け、一時経営危機に陥りました。

次は、ファーウェイが制裁の対象になることは確実視されています。ところが、次のような指摘もあります。

ファーウェイは、アメリカからの制裁でチップの供給を絶たれても、チップの自社開発を推進しているため、ZTEと同じ苦境には立たされない。

ファーウェイは、ビジネスモデルが秀逸であり、外部調達に頼るZTEとは全く違うという訳です。

今後、アメリカの妨害を乗り越えて、どのような形でファーウェイが生き残っていくのか、注目に値します。

ファーウェイ社は、中国人だけでなく、各国から優秀な人材を集めています。

また、全世界170カ国でビジネスを展開しています。

こうした多様な価値観と融通性のある企業が、そう安々と撃沈していくとは考えにくいです。

とはいえ、政府レベルでの逆風が始まったのは確かなことです。

日本・豪州・新西蘭・英国が5G通信網にファーウェイを使わないことを表明

ファーウェイの最高幹部・孟CFOが逮捕されたことは、他国にも警戒感を強めるきっかけとなりました。

5Gネットワークの構築において、中国のIT製品・ハイテク機器を使うことは、サイバーセキュリティ上の問題が発生する懸念を抱かせたからです。

アメリカ政府は同盟国の通信事業者に対し、安全上のリスクからファーウェイの通信設備を使用しないようドイツ・イタリア・日本などに説得し続けました。

その結果、2018年8月時点で、オーストラリアとニュージーランドは、ファーウェイとZTEの5Gネットワークへの参入を禁止する方針を決定しています。

ニュージーランドの通信最大手スパーク社は、国家の安全保障に重大な脅威をもたらすことを危惧し、スパークの計画では、5G通信網にファーウェイの設備を使用し、2020年7月までに工事を完了する予定だったが、政府のこの決定により5G通信網にファーウェイの機器を使用できなくなる方針。

さらに、イギリスの通信大手BT社も、5G関連でファーウェイ製品を使わないと表明しました。

また、日本政府は12月10日に「サイバーセキュリティ対策推進会議」を開催しました。

その内容は、IT機器の調達に関する新たな方針で、政府レベルの情報漏えいや社会的・経済的混乱を防ぐため、サイバーセキュリティーを確保することを目的としたものです。

特に、情報の窃取や破壊、情報システムの停止などの悪意のある機能が組み込まれた機器を調達しないことは極めて重要と説明し、特定企業の名指しは行いませんでしたが、ファーウェイとZTEの排除を示唆しています。

アメリカは、全保障上の懸念からファーウェイ社をブラックリストに載せるよう各国に呼び掛けていました。

つまり、アメリカは、同盟国とサイバー上の共同戦線を張ることを目指しているのです。

これを受けて、12月10日、菅義偉官房長官は、日本を含む同盟国に対し、ファーウェイ製品の使用を止めるよう求めた言及しています。

その一方で、ドイツ政府は12月7日、5Gネットワークの構築に向け、政府調達からファーウェイを排除しないとの方針を示しました。

ファーウェイ排除の理由

「ファーウェイの製品を分解したところ、ハードウェアに『余計なもの』が見つかった」

日本の与党関係者

「ファーウェイの通信機器に、仕様書にないポート(通信の出入り口)が見つかった例がある」「ただ、それがファーウェイの故意かどうかは分からない。開発時の設定作業に利用していたポートを停止せずに製品を出荷したとしても不思議ではない」

サイバーセキュリティー専門家

こうした見解に対して、ファーウェイは12月14日に声明を出し、「全くの事実無根」と完全否定しました。

何故われわれを排除するのか?

「日本に導入されているファーウェイの製品はファーウェイならびに日本のお客様の厳格な導入試験に合格している」

「ファーウェイにとりサイバーセキュリティーへの取り組みは最重要事項であり、自社の商業的利益をこれに優先させることは決してない」

「ファーウェイは世界トップの通信ネットワーク供給業者であり、これまでずっと安全で信頼できる製品の開発に努力してきた。弊社の5G製品は、世界的な規模で通信事業者が採用しており、我々は顧客に革新的で信頼できる安全な5G製品を提供する自信がある」

とのコメントを発表しました

デジタル先進地域の深圳はAI・クラウド・半導体技術で世界トップレベル

中国・広東省深圳にあるファーウェイ本社では、こうした西洋諸国の懸念を気にすることなく、優秀なエンジニアが黙々と働いています。人工知能(AI)、クラウドコンピューティング、半導体技術といった中国国家の優先事項を尊重し、ファーウェイが見据える未来を志向しているからです。

中国政府は、米中貿易戦争が長引くことを想定して、米国の最先端の半導体やソフトウエアに依存しない産業の育成を推進しています。

孟晩舟CFOの逮捕がファーウェイの野心をくじくことはなく、半導体をめぐる米中摩擦の激化に反して、「両社の棲み分け」ある意味では「ブロック経済化」が起こるのは間違いないでしょう。

ファーウェイは次世代通信技術での成功を目指しており、莫大な額の投資を行っています。

ファーウェイはたった10年間でアメリカ・カリフォルニア州サンノゼを拠点とするシスコシステムズに次ぐ接続や通信機器の巨大企業となったのです。

その後、スマートフォン市場にも参入し、韓国サムスン電子に次ぐ第2位に躍り出ました。

ファーウェイの専門技術が中国一流企業や中国政府と結託すれば、次世代技術の中枢となる分野で世界トップレベルを維持することは驚くに値しません。

もはや5Gの技術においては、アメリカの一歩先を進んでいるという指摘もあります。

ファーウェイの目指す到達点は、中国の狙いと完全に重なっています。

習近平国家主席の目標は、中国が半導体で自立した主導的立場に就くことであります。

ファーウェイは、自社の技術開発力と国家との連携があれば、十分に実現可能だと考えています。

習主席が抱く中国が世界的影響力を持つという野心は、

基礎的ハード製造が中心 → 収益性の高いソフト産業へ脱却 → 中国国家が多大な利益を享受

という産業構造の変化によって成し遂げられようとしているのです。



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