米中新冷戦

アメリカ・中国 コラム

アメリカはファーウェイとZTEに限らず、中国の通信大手5社を完全に排除する!




どんなに業績が絶好調であっても、ファーウェイ社を取り巻く環境は日々、確実に悪化しています。

アメリカ政府と議会は、ファーウェイとZTEに限らず、中国の通信・監視カメラなどハイテク企業を完全に排除しようとする動きが見られるのです。

中国の通信大手5社は、2019年からアメリカの政府機関と完全に取引できなくなります。

何故なら、中国は通信機器を経由して、アメリカの軍事技術情報を「抜き出し、盗み取っている」と判断しているからです。

日本を含めたどの国の企業にとっても、アメリカとの関係を優先しようとすれば、通信機器の製造及び部品調達の見直しを迫られるため大きな波紋が広がっています。

中国の通信大手5社がアメリカの国防権限法で2019年から締め出される

2018年8月13日、アメリカ議会の上下両院は、

・華為技術(ファーウェイ)

・中興通訊(ZTE)

・杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)

・浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)

・海能達通信(ハイテラ)

の計5社への締め付けを大幅に強化することを決定しました。

それは、「国防権限法2019」(=2019年度米国防権限法)と呼ばれるものです。

アメリカ議会の超党派の賛成で可決し、トランプ大統領が署名して、この法案が成立しました。

「国防権限法2019」は、2019年8月13日以降に施行されます。

「国防権限法2019」は、アメリカの政府機関(連邦政府、軍部、独立行政組織、政府所有企業)が上記5社の製品(サーバー、パソコン、スマートフォン)や、上記5社が製造した部品を組み込む他社製品を調達することを全面的に禁止した法律です。

米国防総省や連邦捜査局(FBI)が、上記5社以外であっても「中国政府が所有・関係している」と判断すれば、今後も基準に引っかかる中国のIT企業からの通信機器の調達を禁止する予定です。(順次発表予定とのこと)

実は、アメリカ議会では、2012年頃から「ファーウェイとZTEの通信機器が中国のスパイ活動に利用され、米国が開発した軍事技術が流出している」という問題提起がなされていました。

そして、ようやく2017年になって国防総省がファーウェイとZTEの2社の製品を調達しない法律が成立したのです。

2019年度の米国防権限法は、これを国防総省以外にも拡大適用する内容となっています。

2020年には中国のIT企業・5社と取引関係にある世界中の企業が巻き込まれる

さらに1年後の2020年には、通信機器やその部品を扱う中国のIT企業と取引関係にある場合は、さらに厳しい法的措置をクリアする必要があります。

2020年8月13日以降、上記5社の製品を社内で利用している世界中の企業は、いかなる取引もアメリカ政府機関とは一切出来なくなるのです。

アメリカ政府機関に収めている製品・サービスが通信機器とは全く関係のない企業であっても、社内でファーウェイやZTEなどの通信機器を使っているだけで、アメリカ政府機関との取引から締め出されるという内容です。

中国のIT企業と取引している日本企業はたくさん存在しますが、彼らにとって影響力が大きいのは、2019年の措置でしょうか?それとも2020年の措置でしょうか?

それは、もちろん、2020年の措置です。

これを例えて言えば、次のようになります。

不治の感染症に罹っている中国のIT企業と「一度でも接触した取引先」に対しては、治療薬が発見されていないウィルスの侵入を防ぐため、完全に排除して、絶対にアメリカ政府には入れない

という断固たる構えを示しているからです。

実際の具体的な措置が始まるまでには、1年以上の猶予期間があるため、今後どう対応するべきかをじっくりと検討する時間は与えられています。

現段階では多くの企業が中国からの完全撤退や取引停止を到底考えられない

しかし、今現時点では、数多くの中国製の通信機器が、アメリカ政府機関や世界中の企業で利用されているのです。

もしも、事業を営んでいる企業が、アメリカと今後も取引を続けたい場合には、二つの条件が課せられています。

それは、

1.中国製の通信機器の利用を一切断ち切って、その意向をアメリカ政府に報告する義務を負う。

2.中国製の通信機器を二度と使わないことを法律のレベルで誓約しなければならない。

というものです。

アメリカ政府機関と取引関係があるケースの中には、中国国内に工場としての拠点を置き、そこで製品を作っている企業も少なからずあります。

そのほとんどは、実際的な状況として中国製の通信機器を使わざるを得ません。

ところが、こうしたジレンマに陥っている企業にとって、

アメリカ政府と取引を続けるのか? それとも中国での生産活動を続けるのか?

という二者択一を迫られることになります。

何故、ここまでアメリカ政府や議会は中国に対して厳しい措置に乗り出すのでしょうか?

それは、ハイテク覇権・デジタル覇権・サイバー覇権アメリカが握り続けるのか、それとも中国に奪取されてしまうのか、運命が決する重大な分岐点に両国が同時に達しているからです。

アメリカは情報技術を盗んだ中国が軍事分野で活用することを恐れている

もしも、中国製の通信機器を経由した軍事情報の抜き出し(窃取)が治まる気配がなく、現状の無法状態を放置し続けるならば、

無人機 宇宙兵器 人工知能(AI)兵器

といった未来の情報戦争における兵器分野での優位性を中国に奪われてしまう危険性が高くなります。

「国防権限法2019」の影響を受ける企業としては、当初はアメリカの法案を疑心暗鬼の目で見ていました。

これはおそらく、トランプ大統領のいつもの大掛かりな演出によるものだろうくらいに軽く考えていたのです。

ところが、アメリカの法律事務所などに詳しく問い合わせてみると、

アメリカ政府と議会は本気で中国の通信機器を排除しようとしている

ことが次第に分かってきました。

つまり、トランプ大統領はもちろんのこと、アメリカ議会の上院・下院、そして共和党・民主党の全てが中国排除に動いているのです。

こうしたアメリカの真剣さに気付いた関係者は、

α.日本の大手企業がファーウェイやZTEの製品を社内でどれだけ使っているか?

β.中国を外してサプライ・チェーンの構築ができる見込みはあるか?

といった社内調査を行い始めているのです。

(※サプライ・チェーンとは、製造業において、原材料調達~生産管理~・物流~販売までを一つの連続したシステムとして捉えることを意味します。)

米中貿易戦争は2月末までの一時休戦だったはずですが、それは単に表面的なモノの輸出入だけの話です。

真実の深いレベルでは、7年がかりで2012年からの念願がようやく実現に向かっている最中であり、

アメリカは最先端技術を持つ中国のIT企業に対して経済封鎖を実行に移す段階に入ってきている

というのが現状なのです。

そして、来るべき「新冷戦」は、必ずや世界中を巻き込む事態となっていきます。

これはまさに、21世紀版のブロック経済だと表現しても差し支えないはずです。

(※ブロック経済とは、政治上の同盟国と経済的相互協力の体制を築いて、域内における経済交流を促進し、域外諸国には閉鎖的な経済圏を作ることを意味します。)



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