コラム

トルコ通貨リラの急落が止まらない!




トルコの通貨リラは2015年から対円・対ドルで下落を続けています。2018年8月13日時点で、一時的に1ドル=7.23リラを付け、先週末に比べて約10%安を記録しました。これでトルコ・リラは対円・対ドルで過去最安値を更新し、年初からは40%下落しています。

アメリカとの関係悪化や高インフレなどが原因で、通貨安に歯止めがかからない状況です。

エルドアン大統領は、国民にパニックに陥らないように呼び掛けましたが、市場の混乱は収まる気配を見せていません。

トルコ・リラの急落に歯止めをかけ、金融機関が信用収縮に陥ることを防ぐため、トルコ中央銀行は8月13日に商業銀行が利用できる資金と金を増やす措置を発表ました。

しかし、アメリカとの対決姿勢が改善する兆しが見られないと、いくらトルコ中央銀行が政策を打ち出しても、火消しにはならない模様です。

何故なら、エルドアン大統領は、トランプ大統領が両国関係修復の条件としているアンドルー・ブランソン氏の解放に応じる意向は示していないからです。

※アンドリュー・ブランソン氏は、アメリカ人牧師で、トルコ裁判所により、テロリズムを支援した罪に問われて起訴され、収監されていました。8月に入って自宅軟禁となりましたが、アメリカ政府は「不十分な対応」と不満の態度を示しています。

貿易戦争以外の新たな対立、それは外交戦争

ブランソン氏への扱いを巡って米国とトルコの関係は悪化しており、トランプ米大統領はブランソン氏を釈放しなければトルコに「大規模な制裁」を発動する、と7月26日に警告しました。

一方で、エルドアン大統領は7月31日、「いかなる脅しにも屈しない」と述べ、米国が制裁を発動すれば報復措置を講じると、抵抗の構えを崩していません。

多くの投資家はトルコ・リラ相場の下支えのためトルコ中央銀行が抜本的な措置を取ることを求めていますが、仮に中央銀行が政策金利を大幅に引き上げたとしても、アメリカの新たな制裁によって、すぐに相殺されてしまう可能性が高いです。

エルドアン大統領は、トルコは新たなパートナーと市場を懸命に探していること、アメリカ(過去の同盟国)と「決別」する用意があると発言しました。

このように、トルコの政策決定の機能不全は、2018年6月の選挙で、「エルドアン大統領への権力集中」と「議会の弱体化」が進んだ結果、生じています。

民主主義の力によって独裁化していくトルコ

トルコでは2017年の国民投票で、「大統領に権限を集中する憲法改正案」が承認されたのです。

現時点のトルコの信用力について、対外債務・政府債務ともに急激な悪化は考えにくいとされています。

しかし、もしも、外貨準備高が減少して、現在の為替水準が続いた場合は厳しくなるとも指摘されています。

トルコの通貨危機が解消するためには、やはり、アメリカとの関係改善通貨安への対応策を取ることが必要です。

トルコ通貨急落によるショックは、他国にも広がりを見せ、欧州のイタリア債が下落するなど、リスク資産への波及懸念が広がっています。新興国通貨に連動する指数も最も大きく下げて13日は年初来安値を更新しています。

トルコ通貨安が国内問題だけに終わり、新興国全体のリスクとして波及するかどうかは、今後におけるトルコの外交政策が大きな鍵を握りそうです。

アメリカはエルドアン大統領の退陣を求めても、トルコは拒否する、という展開が続くようでは、トルコの金融と通貨の混乱は収まりそうもありません。

トルコは西側諸国が加盟国のNATOとは距離を取り、ロシアや中国、イスラム諸国に接近しているとの見方もあり、早期の解決は難しいかもしれません。

また、リラの通貨不安がくすぶるトルコでは、仮想通貨の取引高が急増しています。

イランでも、法定通貨への信用が薄れると同時に、仮想通貨の取引高が増える現象が起こりました。

今後、こうした動きが政情不安を抱える国々で常態化するのか注目されるところです。

エルドアン大統領は、国民に対して保有するドルや金を「リラ」に両替するよう訴えていますが、トルコの法定通貨リラがどうなるか不透明なままでは、仮想通貨に安心感や安定性を求める人が減ることはないでしょう。

政府の舵取り、財政に対する不安、通貨への不信任が大きくなると、法定通貨から仮想通貨へと資金が移行する、というのは、これまでの近代的な金融システムを大きく揺るがす兆候なのかもしれません。

トルコ情勢は他人事ではない日本の国債市場

日本においても、中央銀行の日銀が年間80兆円の国債買いオペを続ければ、2023年~2024年頃には、完全に国債市場の流動性が枯渇することになります。

2018年8月時点で、961兆円の国債残高のうち、459兆円を日銀が保有しています。80兆円×6年=480兆円の買いオペを継続すると、939兆円分の国債を日銀が保有することになるのです。

トルコは外交上のこじれが要因で通貨不安が起こっていますが、中央銀行が通貨価値をコントロールできない、という状況は、将来の日本においても、起こり得るシナリオです。

今回のトルコ情勢は、日本がどのように政府が国家財政を運営していくべきかを再検討する機会にするべきだと考えています。



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