日本経済・金融政策

日本銀行、「長期金利0.2%までの容認」がどんな意味を持つのか!?

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7月31日の日銀の金融政策決定会合において、「長期金利0.2%までの容認」を発表しました。

その10日前、7月20日までは、長期金利が0.03%だったのですが、0.12%に上昇すると、表面的には0.09の上げ幅という小さな値に感じられます。

ところが、これを上昇率に換算すると約4倍となり、政府が国債に対する利払い費が同じく4倍になるということを意味しています。

債券の発行額面と金利、そして市場の価格と金利は、以下のメカニズムで決定しています。

本当に脆弱極まりない日本の国債市場

約1000兆円という大きな残高がある国債の流通価格は、10年債の金利が0.1%上がるにつれて、0.8%(約8兆円)下落することになります

長短国債の平均残存期間は8年だからです。

もし金利が1%上がると、国債の価格は8%(80兆円)下落し、2%上がると、16%(160兆円)の含み損が生じます。

主に国債を買っているのは、日銀の他、金融機関(銀行、生保)であり、これらが国債の含み損を抱えることになります。

日本は、既に発行されている国債が1000兆円(GDP・国内総生産の1.8倍)と財政赤字の規模が、国内における年間の経済活動の規模に比べて世界で最も高い水準にあります。

そのため、正常に運営されている国家では、全くトラブル要因とはならない1~2%の金利上昇が、銀行や生保が抱える国債の含み損につながり、それは全て保有資産の価格下落となるのです。

銀行や生保が財務体質を極端に悪化させると、過去の歴史においては、必ず金融危機が起こっています。金融危機とは、金融機関(特に銀行)の不良債権の増加と、保有債券と株の下落から起こる信用収縮です。

日本は、今現在は異常なほどの低金利に日銀がコントロール出来ていますが、もしも金利が2%を超えるような事態になると、それはすなわち日銀が国債市場を制御できなくなったことと同義であり、法定通貨である円が他国通貨に対して高い変動率となり、金融市場の大混乱をもたらす懸念があります。

日本の金融市場=長期金利2%=危険水域と頭の片隅に入れておいた方が良いでしょう。

既に発行された国債の1000兆円は、金利の上昇によって、金融機関は150兆円以上の損失を被る可能性があります。この額は、自己資本の額を超えたものであり、銀行、生保の体力を完全に奪い取ってしまう数値となります。

この時、ベネズエラ、トルコ、イランのように仮想通貨に資金が殺到することになるかもしれません。

国債に過度な信用を寄せる国債バブルはいつまで続くのか

つまり、今現在は、「金利が以上に低い=国債が高く買われ過ぎている国債バブル」の状態だと言えます。2012年以上にこうした傾向が顕著になっており、国債の発行額面以上の価格で買っているので、「将来の元本割れ止む無し」を想定しているようにも見受けられます。

額面金額は、債券の値段と同じではありません。例えば、額面金額100円の債券が、100円で発行(これをパー発行という)されたり、101円で発行されたり(オーバーパー発行)、99円で発行されたり(アンダーパー発行)します。新規発行だけではなく、過去に発行された債券を購入する場合も、価格は様々です。

101円で買っても99円で買っても、償還時に返ってくるのは同じ額面金額の100円です。(よく覚えておいてください!!)すなわち、満期がきたら「元本が返ってくる」訳ではないのです。「利息も額面金額が基準」になるため、その債券を安く買おうが高く買おうが「利息額は同じ」です。(これも、よく覚えておいてください!!)

金利が変わらないので、額面金額101円で買った場合、償還時には、100円で戻ってくるため、1円分の損失を被ることになります。

逆に、99円で買った場合、償還時には、やはり100円で戻ってきますので、1円分の利益を稼ぐことになります。

超低金利の国債は、ほんのわずかの金利上昇により、債券価格が下落します。すると利息額が同じなので、価格面と金利面の両方で大きな損失を抱えることになります。

これが、今の日本の金融機関が抱えている目に見えない深刻な問題なのです。

通貨価値の混乱について、世界の歴史から教訓を学ぶ

1997年~1998年に起こったアジア通貨危機では、タイ、マレーシア、インドネシア、韓国の中央銀行は、通貨の増発によって自国の通貨が下落していくのを食い止めることはできませんでした。

これは、それぞれの新興国の経済的な体力が、「中央銀行の信用力の限界=通貨を増発することの限界」に到達していたためです。

ウォール街の大暴落とその後の世界恐慌、リーマンショックとその後の世界的不景気は、「金融危機が、実体経済の悪化をもたらす」という歴史的な教訓を物語っています。

こうした事態を想定しているのか、アメリカは用意周到に利上げを急いでいるように思えます。もし将来、アメリカが震源地となって株価の下落に伴う金融危機が新たに発生した時に、中央銀行のFRBが米ドルの増発という政策を取れないからです。そのため、2018年度中には、4回の利上げ(0.25%×4回)を予定している模様です。こうすることで、米ドルの増発と利下げという手段を取っておく余地が生まれるからです。

法定通貨の発行権力を持つ中央銀行の信用力は無限ではありません。そのことを日本銀行にも理解してもらいたいものです。いえ、とっくに理解しているのかもしれません。だから、手詰まり感が出てきていると市場に受け止められている可能性があります。

「通貨価値の信用力」は、その国の「中央銀行の信用力」に依存しています。

この価値を落とさないためにも、財政出動を積極的に行う政府と協調して、中央銀行が舵取りを行って欲しいと考えています。



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