2018年12月25日の東京株式市場では、日経平均株価が前週末比-1010円45銭(5.01%)安となり、2万円の節目を大きく割り込んで1万9155円74銭の終値となりました。下げ幅は2月6日(1071円84銭安)に次ぐ、今年2番目の大きさです。
日経平均は2017年9月以来、1年8カ月ぶりの安値で、TOPIXは2016年11月以来、2年1ヶ月ぶりの安値となっています。
東証1部銘柄の年初来安値更新数が2008年のリーマンショック時より多くなっています。
東証33業種全てが下落となる全面安で、景気敏感銘柄の精密機器が7%超の下落となるだけでなく、ディフェンシブ銘柄の医薬品が6%超の下落となっています。
医薬品、食料品、電気など値持ちの良かったディフェンシブ銘柄が下落率上位に顔を出していることから、相場の雰囲気が非常に悪いことが読み取れます。
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アメリカの利上げ直後にも関わらず円高ドル安でリスク回避の動きが鮮明に
外国為替市場はドル・円相場が1ドル=110円近辺まで上昇し、輸出関連株が大きく売られました。
その背景には、アメリカのトランプ大統領の政権運営をめぐる不透明感があります。
日経平均の下落率としては、今年最大で、2016年11月9日、アメリカ大統領選挙でトランプ氏が当選した時以来の大きさです。
こうした株価大暴落の理由は、直近の事情として複数あります。
1.FRBの利上げを嫌がっていたトランプ大統領とFRBの対立が深刻化している。
2.マティス国防長官が、新年1月1日に前倒しで辞任することになっている。
3.ムニューシン財務長官が、アメリカの大手銀行6行のCEOと電話協議を行っている。
4.メキシコとの国境の壁をめぐる民主党との予算の対立によって政府機関が一時閉鎖される。
5.アメリカでは国防長官、司法長官、首席補佐官が不在という政権の空洞化が起こっている。
6.欧州・中国の景気指標は既に悪くなっており、2019年の景気減速を株価が織り込み始める。
7.米中貿易戦争の行方が不透明で、アメリカの保護主義的な通商政策が冷や水となっている。
8.米中貿易戦争は、次世代通信(5G)の覇権争いにも関係しており、新冷戦が懸念される。
9.個人投資家が、信用取引の追証発生を警戒した投売りが膨らんで日経平均は下げ幅を広げた。
10.クリスマス休暇中の海外投資家が多く、割安感に注目した投資家の押し目買いがなかった。
トランプ政権のムニューシン財務長官は、金融危機の勃発を恐れ、JPモルガン・チェイスのジェームズ・ダイモンCEOなどに電話をかけて、「アメリカの景気は大丈夫か? あなたの銀行の資金繰りは健全か?」と聞いて回っていたという情報が出ています。
その後、ムニューシン財務長官は「各銀行は大丈夫だという返答を得た。」と公表しました。
ところが、株式市場はこうした行動を「意味不明」だと嫌悪し、「トランプ政権はまともな経済運営ができるはずがない」という評価を下しています。
トランプ氏はツイッターで、アメリカ経済にとってFRBが「唯一の問題」だと述べて、自ら仕掛けた関税の引き上げや貿易戦争、サイバー・軍事覇権争いには責任を感じていない模様です。
アメリカ発の景気悪材料は、最も世界中に大きなインパクトを与えます。その理由は、
でお伝えしています。ぜひご参照ください。
世界的な景気減速・トランプ政権の信認低下・消費増税のトリプルパンチ
また、別の角度からは、次のような理由を挙げることもできます。
1.世界的な景気減速は、金融市場及び投資家のコンセンサス(共通認識)となっていること。
2.トランプ政権の減税効果は2019年前半に剥落すると予想され、アメリカ景気に直結すること。
3.日本国内では2019年10月に消費増税を控えており、個人消費の反動減が予想されること。
4.トランプ大統領への信任が低下しており、政権と議会の対立が長引くことが予想されること。
専門家の間では、日経平均の下値目途は1万9000円程度という声が多いようですが、アメリカの通商政策やアメリカ議会における与野党の対立次第では、さらに下値を探る可能性があります。
株価の売られ過ぎ水準・平成からの改元・6月末に大阪でG20開催が頼みの綱
2019年の1~3月は相当厳しい相場環境が続きそうですが、4~6月に入ると、日本では平成からの改元というイベントがあり、G20も大阪で控えていることから、少し見直し買いが入るかもしれません。
また、PBR(株価純資産倍率)やPER(株価収益率)といった投資指標を見れば、現段階でも相当な割安水準にあり、「売られすぎゾーン」にあることは間違いありません。
しかし、景気減速の波や貿易戦争が世界中を巻き込むことは避けられそうもないので、それを見越した売り越しが当面は続いていくと考えられます。
株式下落が企業の設備投資意欲を削ぎ落とし、自社株買いを減らす悪循環に
また、アメリカの株式市場に特有の要因として次のことにも着目しておく必要があります。
1.アメリカ株式市場の大幅安で、アメリカ企業の設備投資意欲が落ち込む危険性
2.企業の信用力が低下することで資金調達のコストが上がり、自社株買いの原資が目減り
3.株価上昇を支えてきた自社株買いが少なくなり、個人投資家も買い意欲が減退
この3つの要素が、今後のニューヨーク市場やナスダック市場の株安に歯止めがかからず、連鎖する大暴落となっていくことも十分に考えられます。
ニューヨークダウは、12月としては大恐慌の1931年以来最悪の下落率となっています。
マティス国防長官が不在のアメリカは軍事力行使を積極的に行う可能性も?
アメリカの軍事・外交面で重要な任務をこなしていたマティス国防長官が、突然、2019年1月1日に辞任することが決まりました。後任への引継ぎのため、2019年2月末に辞任するとされていたのに、ここに来て再びトランプ大統領との確執があったと推察されます。
マティス国防長官は、「戦う修道士」と呼ばれるほど、冷静沈着で各国の軍事バランスを的確に把握している優秀な人物です。
ところが、2018年12月19日、トランプ大統領がイスラム国(ISIL)との戦争に勝利したとして、シリアからのアメリカ軍撤退を表明したのです。
そのことに、マティス国防長官は強く反発し、決断を変更するよう説得しましたが、トランプ大統領に聞き入れられず、辞表を提出する事態となりました。
シリアの化学兵器使用問題では、一撃だけのトマホークによってシリアを攻撃したことを強調し、戦争の拡大を避けたという実績もあります。
こうした冷静沈着な判断力が高く評価されていましたが、アメリカ艦船と中国との異常接近では「弱腰」という批判の声も上がっていました。
トランプ大統領は、中国への強硬姿勢を取らないマティス国防長官に対して、「もっと強気な行動を取るべき」「やられっぱなしだ」と不満を抱いていたようです。
マティス国防長官は、不必要な戦争によって、予算と兵力を消耗したくないという考えを持っていました。それが、シリアやアフガニスタンへの介入の消極性にもつながっています。
こうした見解が、アグレッシブなトランプ大統領の考え方と背反することとなり、残念ながら辞任へと至りました。
マティス国防長官が辞任したことは、北朝鮮や中国との関係において、軍事力行使に戸惑いを感じないトランプ大統領の好戦的な態度がダイレクトに影響してくる懸念があります。
外需依存度が高く、内需が伸びない日本経済はアメリカ失墜の影響を受ける
日本は、アメリカ以上に実体経済が弱く、ドル高・円安によって業績が支えられる「外需依存の経済構造」であるため、輸出や設備投資が鈍化し始めています。
また、直近の原油価格の下落は、エネルギー資源(原油、天然ガス、石炭、ウラン)を扱う資源関連企業の業績を圧迫する要因となります。
加えて、資源の権益を持って採掘する鉱業企業や、資源に投資して権益を持つ大手商社にとっても逆風だと言えます。
資源関連企業は、資源の需給動向や価格変動に大きく左右される傾向があるため、資源価格の低下は収益悪化につながり、株価にはネガティブに働きます。
以下のような景気敏感株には手を出さない方が良いでしょう。
市況・素材:鉄鋼・化学・非鉄・金属・鉱業・紙パルプ・ガラス・セメント・海運・空運
輸出・加工:電機・精密機器・自動車・機械・造船・ゴム
経済は全体として循環する性質があるため、景気に敏感な業種に限らず、2019年度の日本企業の多くが減益になるリスクが高まっています。
ディフェンシブ株と呼ばれる業種は以下の通りです。この業種が売られるようだと、日本株全体が売り圧力で覆われていると考えるべきです。
日常生活必需品:医薬品・食料品
公共サービス:電力・ガス・鉄道・通信