アメリカ株式チャート

アメリカ・中国 コラム

アメリカの利上げとバランスシート圧縮が世界の景気を減速させる可能性!~パウエル議長が利上げ0回に方向転換~




2018年12月19日、アメリカ連邦準備理事会(FRB)は、2019年の利上げペースを減速すると表明しました。

ところが、アメリカの株式市場では、利上げの停止を求める声が多く、2019年は2回利上げの可能性が高いということで、ショックの失望売りが起こっています。

19日のアメリカ株式市場の急落を受け、小売や銀行、航空株にいたるまで幅広い銘柄に売りが波及しました。航空大手ボーイングは前日比2.5%安、鉄鋼大手USスチールは6%安、銀行大手シティグループとウェルズ・ファーゴも1.5%以上下落しています。クリスマス商戦で注目のターゲット、アマゾン、ノードストローム、ニューウェル・ブランズなどの株価も軒並み3%超下落しました。

12月22日の時点でも、ニューヨークダウは、22,457.03ドル(前日比-402.57)となっており、一向に歯止めがかかっていません。

「海外経済が鈍化して、金融環境も厳しくなった」との認識をパウエル議長も表明していますが、先行きが不透明な世界景気にとっての中立金利の判断は適切ではありません。

2019年の利上げとバランスシート圧縮でショック状態のアメリカ株式市場

中立金利とは

景気を刺激も抑制もしない、つまり高くも低くもないとされる短期金利の水準のこと

中立金利と実質金利の関係

・実質金利が中立金利を上回ると景気抑制
・実質金利が中立金利を下回ると景気刺激

金利が上がると景気が引き締められ、金利を下げると景気を刺激しますが、そのどちらでもない中立の水準というのが中立金利の定義です。

アメリカのFRBによる利上げは2015年に始まりました。2018年までは段階的に利上げが行われ、今回も政策金利(誘導目標)を0.25ポイント引き上げて、「年2.25~2.5%」となりました。

アメリカ金利推移

景気後退を恐れているトランプ大統領は、ツイッターで、FRBは「表面的な数字よりも市場の動きを感じるべきだ」と投稿し、露骨に利上げを嫌がっていました。

それに対して、パウエル議長は次のように反論しました。「我々の議論や金融政策の決定で、政治に配慮したりはしない。われわれは常に、議会に与えられた使命を果たすことに集中していく」

「君子危うきに近寄らず」利上げやバランスシート圧縮を急がないのが得策

とはいえ、米中貿易摩擦や中間選挙後のアメリカ株急落、中国とヨーロッパの景気指標の悪化を見れば、2019年は「分からないから一旦は様子見!」「柔軟に対処」という方針を打ち出すこともできたはずです。

ノーベル賞経済学者のポール・クルーグマンも、「トランプ大統領が発言するように、今回は利上げをすべきではないという根拠も十分あった」と発言しています。

失業率が3%台と完全雇用の状態にあることなどアメリカ経済は、絶好調のようですが、米中摩擦が話題になってから、景気の好調さに陰りが見えてきています。

当初の利上げ回数は年3回の予定でしたが、それを2回に減らしたことは、こうした景気減速のリスクに配慮したものです。

ところは、アメリカの株式市場は、それに対して、「NO!」「不十分」だという反応でした。

アメリカ株式チャート

9月下旬からは明らかに株価が急落しており、そのペースが半端ではないので、FRBのパウエル議長としては、ここは、一旦「様子見」あるいは「市場に安心感を与えるメッセージ」を出すべきでした。

ところが、FRBのパウエル議長が「資産圧縮ペースについて変更はない、機械的に行っていく」と語ったことが、現地時間14時頃から急加速して株価が下落していく要因となりました。

FRBがリーマンショック以降、量的緩和で買い入れた資産を圧縮する「量的引き締め」停止に動くとの期待がありましたが、パウエル議長は「バランスシートの縮小による影響は小さい。正常化を変更するつもりはない」と一蹴したのです。

これは流石に金融政策として無理があります。利上げを既に2.5%まで行った上で、資産圧縮も同時に行う(バランスシートの縮小)というのですから、投資家にとっては全く受け入れられるものではありません。

実体経済と財務体質は分けて考えるべき 本当はまだリハビリが必要な状況

確かに、アメリカの実体経済は強くなっていますが、財務体質(特にバランスシート)は磐石だとは到底いえないのが現状だからです。「ドルが凋落するかもしれない」「金融危機で世界がメルトダウンするかもしれない」と言われたリーマンショックからたった10年しか経っていないからです。

その間、ありとあらゆる民間の不良資産(特に不動産担保証券・MBS)を、FRBが二束三文で買い取ることで、金融収縮は収まり、金融機能は徐々に回復していったのです。

(※不動産担保証券・MBS 資産担保証券の一種。不動産ローン債権を証券化したもの。そのうち、住宅ローン債権を証券化したものを住宅ローン担保証券(RMBS)という。MBS(mortgage-backed securities)。)

これでもはや、アメリカのダウ平均が300~500ドル下落するのは、2018年秋頃以降は当たり前の光景となってしまいました。

欧州経済は中国経済と一蓮托生 貿易戦争で世界同時不況を招いては意味なし

ヨーロッパ経済は、中国経済と密接にリンクしていますが、イギリス、フランス、ドイツと弱く、その輸出先として大きな受け入れ口である中国がアメリカに叩かれています。

さらに、イギリスの欧州連合(EU)離脱も行方が混沌としている状況です。

こうした世界的な景気減速の波は、原油価格の下落にも影響が現われており、このまま2019年を迎えると、確実に不況の波が訪れそうな予感です。

その緩和策として、まずは、米中が通商問題でスムーズに折り合いをつけることが何よりの優先事項です。

これがこじれて、次世代高速通信(5G )を巡る覇権争いに発展すると、ますます景気の腰折れ要因となる懸念が出てきます。

アメリカ人の家計は、現預貯金よりも、株式を中心としたリスク資産の保有量が多いという特徴があります。

そのため、もし今後に株価下落のトレンドが発生すれば、大きく消費が下振れすることになるでしょう

トランプ大統領は、「インフレなんてほとんど起きていない」とFRBの利上げを批判してきましたが、実際に、物価上昇率(エネルギーと食品を除くコアコアCPI)では、3カ月連続で目標の2%を下回っています。

パウエル議長も「物価上昇は驚いたことに弱まっている」と素直にトランプ大統領の主張を認めています。

それでも、政策金利を2.25~2.50%の水準へと引き上げに踏み切った背景には、このままでは先行きの利下げ余地が確保できず、景気の安全弁としての中央銀行の機能が大きく損なわれるリスクを警戒しているからと考えられます。

しかし、実体経済、特に金融機関の業績不振が出てくることよりは、マシでしょう。

アメリカは、消費意欲が旺盛なのは結構ですが、ローンに頼る消費行動は改善している訳でもなく、ましてや貯蓄性向が高い訳でもありません。

このままだと、学生ローンや自動車ローンなどで、第二、第三のサブプライム・ローンのような金融派生商品が、世界中の金融市場を揺るがすことにもなりかねません。

アメリカ発の金融不安は、資本主義経済の崩壊につながるほどのインパクトを秘めています。

だとしたら、FRBのパウエル議長は、もう少し穏やかな方法で「急がず、焦らず、でも止まず」という姿勢で、金融機能の正常化を目指すべきだと考えています。

【1月31日更新】米連邦準備制度理事会(FRB)は30日の連邦公開市場委員会(FOMC)で、米中貿易摩擦などで世界経済の減速懸念が強まったため、利上げの一時休止などを決め、従来の金融引き締め策を転換しました。

以下は、パウエルFRB議長のコメントです。

「中国と欧州の状況(景気の減速)があり、米政府機関の一部閉鎖の影響もあった。金融環境も昨年の第4四半期(2018年10~12月)にかなり引き締まり、いまも続いている。そうした事情を考慮した」

「FRBが考えているのは、米国民のために働くということだけだ。政治的判断は一切、考慮に入れていない。それを米国民にも理解してほしい」

今回のFOMCでは、景気次第では年内に全く利上げをしない可能性もにじませています。当面は金融引き締め路線を停止し、景気動向を見守った上で、政策金利の誘導目標は「年2.25~2.50%」で据え置きました。

【3月21日更新】FRBは3月19~3月20日に開いた連邦公開市場委員会(FOMC)で、成長ペースが鈍化する中、ハト派的な政策スタンスへの転換が鮮明となり、2019年の想定利上げ回数をゼロとしました。

バランスシート縮小については時期を早めて年内終了から9月に終了すると表明しています。

5月からバランスシート縮小ペースを減速し、保有国債の毎月の縮小ぺースは最大300億ドルから最大150億ドルに半減しました。

FOMCでは、フェデラルファンド(FF)金利の誘導目標を2.25~2.50%に据え置くことを全会一致で決定しました。

FRBが金融政策に「忍耐強く」対応するとの方針も再表明しています。

市場関係者は、9月末というバランスシート縮小終了の時期は、予想より早いとの見方が広がっています。

米中貿易戦争が終わり、完全に景気絶好調の兆しが見えてこないと、利上げはほぼ終了と判断するべきでしょう。

ニューヨークダウはトランプ政権以降、2万5000ドル近辺の高値に戻ろうとしていました。

しかし、これ以上高い位置に株価が上昇するのは、下落した時のショックが非常に大きくなります。

利上げ0回は確かに朗報ですが、景気の冷え込みを防ぐと同時に株価を安定的に維持、場合によっては緩やかな下降トレンドに持ってく必要があります。

2019年だけでなく、2020年も利上げはしないとの方針をパウエル議長は表明しています。

後は、アメリカ発の金融危機を防ぐために最大限の注視を行い、いざという時の機動的な金融緩和ができるかどうかが重要な鍵を握っていると言えます。

アメリカ連邦準備理事会(FRB)パウエル議長の一問一答とそれに対する見解

失業率とインフレ率について

ゆき
ゆき
雇用者の労働環境が良いのに、インフレ圧力が高まらないのですか?

「確かにインフレ率は見込みをわずかに下回っている。より広い目で見れば、2018年は金融危機後最も強い1年間で、失業率は低く、インフレ率は2%にわずかに届いていない。

「この状況はFOMCが忍耐力を与えてくれている。今後の利上げの道のりと最終的なゴールに関しては深く不確かな部分が多々ある」

この深く確かな部分についてもっと詳しく説明して欲しいですね!
さなだ
さなだ

バランスシートについて

ゆき
ゆき
今後の利上げペースを引き下げましたが、バランスシートの縮小計画も変更する議論をしていますか?

「市場はバランスシートのサイズや資産購入のペースのニュースにとても敏感だ。私たちは金融政策の正常化をどのように進めるか注意深く検討し、効果的にバランスシートを正常化させられるように考えてきた。これまでのところ正常化はスムーズで、変更するつもりはない。引き続き金利を金融政策の積極的なツールとして活用していく」

いや~、それはバランスシート正常化にこだわりすぎでしょ。潔癖症がアメリカ経済をどん底に追い込む危険性を想定しないと。
さなだ
さなだ

次の利上げについて

ゆき
ゆき
インフレ率の動きを見る限り、次回の利上げは少しゆっくりとしたペースになるのですか?

「18年はとても強い1年であったことと、2019年の成長を楽しみにしており、プラスの見通しを持っていることをまず強調したい。我々は長期的な潜在成長率を若干上回る2.3%の成長を遂げると予想している。」

2019年の成長を楽しみにしており、プラスの見通しを持っているってホントですか?2.3%の潜在成長率も十分な根拠が欲しいですね。
さなだ
さなだ

「失業率はさらに低下し、インフレ率は目標近くにとどまる高成長になるだろう。今後発表されるデータが想定通りの道をたどるかどうか、経済発展が我々の期待に沿ったものになるかどうか、特に注目していくつもりだ。」

人手不足もあって、失業率の低下はまだまだあり得るでしょう。でも、インフレ率が目標近くで高成長とは、楽観視し過ぎだと思います。
さなだ
さなだ

「さらに言えば、我々は委員会が中立的だと考える予想範囲の下限にすでに達していると思う。したがって、この時点からはデータからわかる情報を重視し、何が適切な金融政策かを伝えていくつもりだ。つまり今後の利上げについては不確実性が多くなる」

利上げの不確実性は、当然に意識すべきですね。世界全体の景気が減速に向かっているんですから。貿易摩擦で中国に規制をかけるようなことをすると、アメリカの首を絞めることになりかねませんよ。
さなだ
さなだ

経済の見通しや利上げの判断について

ゆき
ゆき
株式相場の下落、貿易摩擦の高まり、トランプ大統領による介入は、経済の見通しや利上げの判断にどのような影響を与えましたか?

「我々は金融市場の環境を広くチェックしている。9月のFOMCから金融の環境が厳しくなっているのは事実で、今後の経済成長と利上げの予測に織り込んだ。声明文の書きぶりからもわかるように、そのリスクは認識しており、今後の進展を注意深く見ていく。」

「企業や市場の関係者の間では、世界経済の成長減速に対する懸念があるようだ。その理由の一部には、貿易摩擦の高まりもあれば、他のこともあるだろう。関税の影響を機械的に見積もれば、米国経済への影響はそこまで大きくない。実際の影響は金融市場の変化やビジネスに対する自信の喪失から発生し、予測することはとても難しい」

おっしゃる通りですね。実際の影響は、金融市場の変化とビジネスへのマインド・セットつまり、心理的、精神的なものから発生すると考えられます。
さなだ
さなだ

利上げを決めたポイントについて

ゆき
ゆき
インフレ目標が達成できない中で、利上げを決めたポイントは何でしたか?

「経済の健全性の話に戻る必要がある。18年を振り返ると、金融危機以来で最も良い1年だった。長期トレンドをはるかに上回る成長を遂げ、失業率は下がった。インフレ率は2%に向けて上昇しており、見通しも明るい。健全な経済の状況において、今回の利上げは適切な判断だ。」

今後の見通しは明るくないです。今回の利上げは良いとしても、2019年の2回の利上げは急ぐべきではないはず。
さなだ
さなだ

「現時点で政策が緩和的である必要はない。我々は中立的な見積もりの範囲の下限にあり、それが決定の根拠だ」

状況がどんどん悪くなったら、そんなこと言ってられませんよ~。
さなだ
さなだ

データに現れない材料について

ゆき
ゆき
経済指標にまだ現れていない材料が金融市場に現れていますか?

「各地区連銀の経済状況を報告するティール(青緑色)ブックを見ると企業の幹部だけでなく文字通り何百という非営利団体や労働組合の人々の意見を知ることができ、個人的にも非常に興味深いものだ。私の経歴は少人数の人と仕事をすることが多かったので、こうした個別の具体的なデータは経済の状況を良く知る上で助けになる。その情報から1つ言えることは現在、人々が景気の先行きに懸念を持つムードが強まっているということだ。それがデータにすぐに大きく現れるとは限らない。金融市場の状況はやや引き締め気味になっていることは金利予測の際に我々も踏まえており、将来の利下げの局面でも頭に入れておく必要がある」

まさに金融心理学の本質的なことなんですが、数字やデータと同じかそれ以上に、ムードや雰囲気が持つ影響力を侮ってはいけないと思います。
さなだ
さなだ

賃金上昇について

ゆき
ゆき
賃金上昇はさらに加速するでしょうか?

「賃金上昇は続くと予測しており、それはいいことだ。賃金上昇は必ずしもインフレにつながるわけではない。極めて労働市場が逼迫していた1990年代後半の例がある」

「生産性にインフレを加えた以上に賃金が上昇しても、高インフレにならなかった。労働力が不足しているとの情報が多く寄せられているので、引き続き賃金は上がるだろうが、それがインフレを意味するとは考えていない」

おっしゃる通りですね。日本の経済産業省や政府閣僚にも聞かせてあげたい重要なコメントです。
さなだ
さなだ

長期金利について

ゆき
ゆき
長期金利はここ数週間で大きく低下しました。これを景気やインフレの見通しに対する懸念とみているか。それとも住宅ローン金利の低下などポジティブな影響とみていますか?

「我々は様々な金融指標を参考にし、一つのデータに固執することはない。長期国債については、株式市場のリスク回避の姿勢と一致している。しかし我々はこれが継続するかはわからない。長期国債の金利は市場のリスクセンチメントに応じて3%近辺を行き来している。もし金利が長期間にわたり低い水準にとどまれば、(市場が)低い成長率を予想していることの示唆と考えられる。しかしこれが起きるかどうかはわからない。我々は来年は、失業率の低下と健全な経済のもと堅調な成長を見込んでいる」

2018年は、長期金利が3%を超えると、株式市場が動揺して大きく下げる上に、新興国の通貨安が起こるという場面が何回かありました。腹八分目で2.5%前後に抑えるのが、短期・長期ともに良いさじ加減の金利なのではないでしょうか。
さなだ
さなだ

注視しているイベントについて

ゆき
ゆき
世界の動きに注視しているようですが、具体的にはどのようなイベントを指していますか?

「英国による欧州連合(EU)離脱や、イタリアとEU間の交渉などのイベントリスクも注視している。米国の金融機関や監督機関は、EU離脱に対する長い準備期間があった。様々な結果に対応する準備はできているとみている。米国に対して大きな影響はないはずだが、今までに起きたことがないため、不確実性が多く、注視していく」

ヨーロッパには不透明で脆弱なリスクが非常にたくさんあります。こうした全体像を鑑みた上でてアメリカの金融政策が世界中に影響を大きく与えることを決して忘れないで欲しいと思います。
さなだ
さなだ

今のところ、FRBは一貫してアメリカ経済は底堅いと判断しています。

そのため、2019年に2回の利上げが可能と見ていますが、金融市場に今必要なのは、FRBが米経済の底堅さを裏付ける正確で力強い経済データの数々を証拠として示すことです。

また、トランプ大統領の大型減税は一度きりです。イギリスのEU離脱の混迷、ドイツのメルケル経験の弱体化、中国との貿易摩擦など、総合的に考えれば、現時点で利上げを淡々と行うのは、AIよりも血が通っていない(いや、AIの方が的確な判断ができる)と痛感しています。

2019年は、アメリカに関しては、自然な経済現象としての景気のダメージよりも、舵取りを間違える人災としてのダメージが強く色濃く現われる可能性があります。

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