水道民営化

コラム 日本経済・金融政策

岩手県・雫石町で発生した水道トラブルは、水道の民営化で都市部でも起こり得る!!




岩手県の中部に位置する雫石町には素晴らしい観光資源がたくさんあり、その魅力に惹かれて旅行先として訪れる人々が数多くいます。

雫石町には、スキー場やキャンプ場、網張温泉などがあり、湯治やアウトドアを楽しめます。特に、雫石スキー場は、1993年にアルペンスキーの世界選手権が行われた本格的な滑降コースとして有名です。

日本最大の民間総合農場と言われる小岩井農場も人気の高い観光スポットで、雄大な自然の中で馬との触れ合いや、バター作りなどを体験できます。

そして何よりも、雫石町は水が美味しく、岩手山神社、玄武の湧水、ひかげの水、雫石神社など湧水が豊富にあります。

ところが、こうした岩手県・雫石町の観光地「岩手高原ペンション村」で、将来の日本の在り方を懸念せざるを得ない事態が起こっています。

民間の管理会社が運営することで水道の停止が起こるかもしれない雫石町

何と、水道施設を運営している民間の管理会社イーテックが、井戸水をくみ上げるポンプの電気代が支払えないという理由で、いきなり住民に「「9、10月分の電力会社に払えてない約50万円分を住民で負担してください」と通達を出してきたのです。1軒あたりに換算すると、その額は約1万5000円になります。

そして、「支払わない場合は、水道を止める」というのです。これは一方的な脅迫に近いです。

元々、この場所がリゾート地として開発が始まった1970年頃には住民がいませんでした。

そのため、地方自治体の雫石町は水道管を引かずに、民間の管理会社が水道施設を運営することになっていたのです。

2018年12月17日には、「生活に欠かせない水道が止まるかもしれない」と住民達は不安の声を上げています。

ペンション経営者としては、水道の停止によって、お客さんを呼べなくなれば、ビジネスが成り立ちません。

説明会においても、管理会社イーテックは住民に謝ることなく、一方的に水道料金の引き上げ(電気代の赤字分)を主張し、最悪の場合は水道管を止めるという「けんか腰」で話し合いになりませんでした。

住民に対して「水道供給を止めた方が赤字は減る」と開き直る水道管理会社

そして、管理会社イーテックは住民に対して、「水道供給を止めた方が赤字は減る」とまで言い出す始末です。

住民の方が管理会社の言い分を受け入れると、今後、年間の水道料金は一気に約4倍になる可能性が出ています。

あまりに対応が悪いため、「追加額を支払うつもりはない」「町から出て行くかもしれない」という住民もいます。

住民の中は「水道を引いてから40年以上経ち、漏水を起こしてポンプ代がかかっているのかもしれない」と話しており、正確な情報が得られないことに戸惑っています。

(※民間委託ならではのお粗末な出来事です)

実際に、老朽化したポンプは漏水を起こしているらしく、電力を使って水をポンプに運んでも、かなりの部分が漏水でムダになっていると思われます。ポンプの修理を早急にすべきところに、電気代を支払えというのですから、全く本末転倒な言い分です。

地方自治体の雫石町としては、実際に水道が止まった場合は、公民館の蛇口を一般開放する予定ですが、ペンション村から14キロほど離れており、あまり現実的な解決策とは言えません。

そもそも、民間会社による水道運営を許可したのは岩手県ですが、「県としては水道料金の話であるとか電気料金の話については、管理会社と利用者の間で話し合いを持って決めていくものだと思っている」という回答が返ってきました。

つまり、水の安定供給という人々の生命を守るべき行政府の取り組みが、このケースでは民事不介入の案件として扱われ「居住者の自己責任で行動してください」と結論付けられたのです。

民間会社に水道の運営を委ねているため、水道の停止もあり得るという状況は、「行政としては対策を取るのが難しい」という言い訳を表明しています。

本当にお粗末ですが、改正水道法が可決されたことで、日本に住んでいる限り、今後は他人事としては絶対に見過ごせない案件です。

【2018年12月18日更新】

水道管理業者は同日を支払期限としていましたが、納得できない住民の有志達は弁護士に相談し、とりあえず事業者に代わって11、12月の電気料金を一時的に立て替えて東北電力に支払うこととなりました。

2019年1月以降は、まだどうなるのか、まだ未知の状態が続いています。

住民側の弁護士によると、盛岡市の東北電力岩手支店を訪れ、料金未払いを理由に電気を止めないよう要請したところ、当面は給水が続けられる見通しとなったのです。

それと同時に、ADR(裁判外紛争解決手続き)を利用して水道管会社のイーテック側と協議することを検討しています。

(※ADRは、民事裁判とよく似ていますが、原告側の費用負担が少ない、公正中立な判断が望める、というメリットがあります)

今回のトラブルは、水道の民営化拡大に向けた動きに確実に影響を与えることになるでしょう。

水道事業を民営化しやすくする改正水道法は本当に必要なのか

何故なら、2018年12月6日、水道事業を民営化しやすくする改正水道法が可決され、成立したからです。

この法案は、水道事業の運営権を民間に売却できる仕組みを導入するという、生活の維持と安全に関わる非常に重要なものです。(7月に衆院を通過して11月に参院で可決)

そもそも、水道事業の民営化を推進しようという動きは、2018年6月18日に発生した大阪北部地震がきっかけです。

大阪北部地震の影響で、21万人以上が水道管の破断などに伴う断水や漏水といった被害を受け、「水道管の老朽化」が明るみとなったことで、衆議院で6月27日に水道法改正が審議されることとなりました。ところが、衆議院での審議時間はたったの8時間でした。

きちんとした枠組みが提示されないまま、外国人労働者の受け入れを拡大するための入国管理法改正案が可決したのもそうでしたが、今の安倍政権はどう考えてもおかしいです。

行政府の意向で水道事業の民営化が審議され、国会は行政の下請け機関のように、次々と亡国に繋がりかねない法案を可決していきます。

人口減少による水道の需要減で事業収入は低下  水道管の老朽化で更新時期に

全国的に水道管の老朽化が進んでいますが、整備が進んだ1960~1970年代に建設された水道管が更新時期を迎えているという要因があります。(※更新=取り替えること)

今の時点で、耐用年数40年以上を超える水道管は約10万kmもあり、これは地球2周半に相当します。

更新費用は1kmに付き、1億円以上かかると試算されています。さらに、これからも老朽施設の更新需要は年々増加する傾向にあります。

老朽化した水道管を更新するために必要な資金や人材が不足しているという問題が浮き彫りとなっています。

これまで日本の水道運営は、徴収した水道料金と地方自治体が発行する地方債によって水道事業の運営や設備の補修が行われてきました。

ところが、日本の人口減少によって、水道料金収入が減少して赤字となり、水道管のメンテナンスが遅れています。

その結果、水道管の破損などトラブルも起こっていますが、財政赤字を膨らませたくない政府としては、国債発行による公共事業は難しいという見解を取っています。

水道事業の多くは、人口減少によって水道の需要が少なくなったとしても、運営にかかる費用が下がるという単純なものではありません。

逆に人口減少が原因で水道料金の収入が減っているため、水道事業を維持していく上での支障をきたしています。

日本水道協会によれば、直近の4年間で水道料金は上昇しています。

このままの状態だと、水道料金は30年後に60%も値上げされるという試算もあります。

厚生労働省によれば、日本の地方自治体が運営する水道事業は30%が赤字となっており、水道料金を値上げしても、水道事業者は赤字から脱却することは難しい状況にあります。

老朽化した水道管を更新する費用も、私たちが支払う水道料金に跳ね返ってきます。

日本で老朽化した全ての水道管を更新するためには、130年という長い年月がかかるとされています。

人口減少に伴う水道事業の収入減や水道管の更新需要によって、水道料金の値上げはさらに続くことになりそうです。

また、水道事業は、日本人の高齢化に伴い人材が不足しているという問題もあります。

こうした観点から、地方自治体が水道事業を運営していくのは限界で、民間の力を活用せざるを得ないという方向に舵を切ったことになります。

財政赤字(国の借金)を金科玉条として小さな政府を目指そうとする日本

水道管が老朽化しているならば、政府が建設国債で資金調達を行えば良いのですが、財政赤字・国の借金という文言に囚われているため、そうした手段を絶対に取ろうとはしない模様です。

建設国債(赤字国債)の発行を通じて、老朽化した水道管を更新していくのではなく、民間企業を水道事業に参入させることで、資金と人材の不足を補おうというのが政府の立場です。

さらに、地方自治体には困難でも、民間企業ならコストを削減できるという姿勢を政府は取っています。

1.水道管が老朽化しており、新しいものに取り替える必要がある

2.人口減少によって地方自治体の水道事業が赤字化している

3.民間に水道事業へ参入してもらうことで、資金と人材の不足を補う

という流れになります。

政府としては、「ノウハウを持っている民間企業に任せた方が、安全な水の安定供給を維持できる、赤字経営から黒字経営に転換できる」と主張しています。

海外では水道民営化は過去の話 水質悪化や料金値上げで再公営化に向かう

一方、野党からは「料金高騰や水質の低下を招く」「海外では民営化の失敗が相次ぎ、再公営化の動きが出ている」などと懸念する声が上がっています。

実際に、海外では、民間企業と契約した後、数十年経ってから水道事業の再公営化への動きが起こっています。

その理由は、水道民営化によって水質の悪化が進み、水道料金の値上げが相次いだからです。

これに対して、菅官房長官は「水道料金の高騰を防ぐ仕組みや、事業の安定性、安全性に十分留意した」と反論しました。

本当にそれが可能なのか、岩手県の雫石町のようなトラブルが人口の多い都市部で起きないのか、今後の動向を注視していく必要があります。

売国奴の政治を着々と行なう安倍政権 水道利権の外資支配もあり得る

2014年4月に施行された8%の消費増税は、予想通り大幅な景気の落ち込みをもたらしました。

その影響は内需不振、国内消費の低迷という形で、今でも明らかに残っています。

そこに追い討ちをかけるかのように、2019年10月、新たに10%の消費増税が行なわれます。

それによって、国内景気はトドメを刺されることになるでしょう。

物価上昇率は日銀の目標達成には遠く及ばず、実質賃金や消費性向は確実に落ち続けているからです。

水道民営化の流れも、日本国家の衰退を助長する悪しきトレンドです。

日本の安倍首相は、2018年に可決、成立した「改正水道法」が

1.民営化ではない

2.水道管の老朽化対策に官民連携による民間資金の活用が必要

3.民間企業のノウハウを活用してコストダウンすれば水道料金が抑えられる

4.老朽化した水道管の改修費も出てくる

として、あらゆる批判を一掃し、「改正水道法案」を強行採決しました。

これまで水道料金が低額で安定しているところに構造改革=民営化という名のメスを入れて、民営化を推し進めるのは、外資による水に関する権利の支配を助長するものとなる可能性が高いでしょう。

民営化を急ぐ背景には、財務省がプロパガンダを行なっている日本の国家財政の赤字増大、国の借金問題があります。

つまり、財政難で、水道の公共性を維持し、水道管の維持・管理・運営の費用を国や地方自治体が負担していく、というのは無理だと主張しているのです。

とはいえ、自国通貨建てで海外保有率の低い日本国債が、ハイパーインフレーションによって大暴落を起こし紙くず同然となる、何てことは絶対にありません。

※日本の産業が落ちぶれ、GDPが急速に減少して対外債務国となった場合は別ですが、それは政府が意図的に主導した場合(国家滅亡へと追い込んだ場合)にのみ起こり得ます。

水道民営化は財政難を煽る財務省の緊縮財政と密接に関わっている

こうした緊縮財政の路線は、上記の構造改革=民営化と明らかにつながっています。

ここでは、特定の利権、既得権益者の利益優先が関与していると考えた方が辻褄が合います。

例えば、水メジャーのヴェオリア・ジャネッツ社(フランス)は既に日本に検針事業などで日本の水道事業に進出してきています。

そこに加えて、副総理である麻生太郎氏の娘、麻生彩子がヴェオリアの幹部と結婚したという噂(事実は確認できず)も、日本に対する外資乗っ取りの不信感を一段と募らせているのです。

日本政府は、「改正水道法」は、コンセッション方式=地方自治体などが公共施設を所有したままであり、運営権だけを企業に委ねる仕組みなので問題ないと主張しています。

確かに、1999年7月に公布されたPFI法(プライベイト・ファイナンス・イニシアティブ法)は、公共性の高い事業をコンセッション方式として民間資金等の活用による整備等の促進を促すものでした。

その内容は、

1.国や地方公共団体の事業コストの削減

2.より質の高い公共サービスの提供を目指す

ことが目的であるとされています。

日本では主に、

1.公共施設の建設

2.公共事業

3.公共施設に民間施設を組み込む

という分野においてPFIの手法を取り入れ、都市開発の多くもPFIが活用されています。

それは、国や地方自治体の負担を減らし、「民間企業」にリスクを移転するという点で、上手く機能している場合もあります。

公共性のある事業に市場と競争の概念を導入し、地方自治体など供給者の都合だけでなく、利用者・消費者・企業などのニーズを反映したサービスを提供したいという健全な目的もあります。

改正PFI法は公共施設の運営権だけでなく公共料金の徴収をも可能にした

ところが、2018年10日に施行された改正PFI法がおかしな方向性をこしらえてしまいました。

その結果、改正PFI法に「公共施設等運営権」という権利が新たに追加されました。

これによって、運営権を手に入れた事業者は、施設の運営や維持管理を行うだけでなく、利用料金を自らの収入として収受することが出来るようになったのです。

改正PFI法は、

1.日々の施設運営

2.設備投資

3.料金徴収業務

を民間企業が包括的に長期間に渡って実施できるという国民が享受すべき公共的利益に反する法律上の抜け穴を作ってしまったのです。

また、これに加えて公共施設の運営権の売買も可能となります。

改正PFI法が適応される事業として、

上下水道事業 空港事業 公営鉄道 地下鉄事業 公営住宅

の民間企業による運営が可能となります。

日本政府としては、改正PFI法によるコンセッション方式を活用することで、

1.民間のノウハウを通じて事業運営の効率化

2.サービスレベルの改善と向上

3.公共部門への資金調達に対する財政負担の減少

が円滑に行なわれ、財政健全化(=国の借金を減らす)ことを期待しているのです。

日本政府は、水道民営化を否定していますが、改正PFI法に基づく水道事業のコンセッション方式は、水道施設の運営だけでなく完全支配もできる「事実上の民営化」となってしまいます。

その理由は、水道施設の所有権が地方自治体に残っても、運営権を握る民間企業の決定権が巨大化するため、実質的には、通常の経営と何ら変わりはないからです。



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