日本の化学産業は、優れた高い技術力と国際競争力を誇る製品を数多く生み出しています。
しかし、その一方で、製品原料としてナフサなどの石油資源を大量に消費し、二酸化炭素排出による地球温暖化及び気候変動の影響が不安視されています。
温暖化対策ではこれまで、二酸化炭素を排出しないか、排出量を減らすことに重点が置かれてきました。
しかし、それだけでは年々深刻化する温暖化の対策としては不十分です。
そこで、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)では、環境に優しいモノ創りに取り組んでいます。
「太陽光」を用いて「水」を、「水素」と「酸素」に分解し、生成された「水素」と工場から排出される「二酸化炭素」を合成することで、代替プラスチック原料を製造するプロセスを実現するための開発を行っているのです。
目次
水を最大限に活用し、石油に頼らないことで、地球環境の美しさを取り戻す





不思議なことに、汚染物質は、油と親和性があります。そのため、石油を原料とするプラスチックは海を漂う間に汚染物質を吸収しやすく、汚染物質を運んでしまうという性質が分かっています。
加えて、石油を燃料する火力発電や稼動する工場の多くは、二酸化炭素を多く出すため、どうしても環境を汚染してしまいます。
それに対して、油と溶け合わない水は、人間だけでなくあらゆる生命体にとって欠かせない重要なものです。
河川や海洋の水が綺麗だということは、もちろん、自然環境も美しいということにつながります。
そしてそれは、生命を育む最高の条件となるのです。「環境が汚染されている=水が汚染されている」といっても過言ではありません。
水が綺麗だということは、大気・大地・生態系も全部含めて環境が汚されていないのと同義なのです。
私達の暮らす惑星である地球は、4分の3が青く広がる海でできています。地球はまさに水の惑星なのです。
さらに、私達人間の身体も70%は水分で構成されています。それはすなわち、「生命=水」と表現しても良いくらいです。
「人間の体内の水(血液)が綺麗=健康」で「人間の体内の水(血液)が汚れている=病気の元」だと考える科学者もたくさん存在します。
それは、血液が巡ることによって身体の機能が保たれているので、当然といえば当然のことです。
実際に、現代の最新医学では、血液を調べれば、生活習慣病だけでなく人間の健康状態がかなり綿密に分かるからです。
地球温暖化という地球環境の危機を解消する人工光合成は凄い新技術
アメリカでトランプ大統領がパリ協定脱退を表明して以来、パリ協定の具体的内容や温室効果ガス削減の枠組みなど先進国と発展途上国の対立は深まるばかりで、ほとんど進展が見られません。
このままでは、パリ協定が開始される2020年までに準備が間に合わない懸念が指摘されています。
ところが、こうした世界全体が直面している地球環境の危機を解消するべく、日本は、官民一体となって革新的な効果をもたらす可能性を秘めた技術開発の取り組みを行っているのです。
それは、「水」と「二酸化炭素」から有益な物質を生み出す「人工光合成」という方法です。
光合成とは、緑色植物が光のエネルギーを用いて、二酸化炭素と水からでんぷんやブドウ糖、酸素などを作り出す過程のことを言います。
「人工光合成」の技術では、これを人工的に行うことで、温室効果ガスの6割を占める二酸化炭素を材料に、プラスチック原料や次世代エネルギーとなる水素やギ酸(カルボン酸)を生み出すことが可能となります。
「人工光合成」は次のような2つの段階を経て行われます。
①太陽エネルギーを使って、「水」を「水素」と「酸素」に分解します。
②生成された「水素」と「二酸化炭素」を原料として、プラスチック原料に合成します。
「人工光合成」のメリットは二つあります。
1.水素は、環境を汚染しないクリーンな燃料として次世代エネルギー源に使うことができます。
2.工場や火力発電所から排出される二酸化炭素を消費することで、地球温暖化対策となります。
このように、温暖化の原因となっている「二酸化炭素」を使いながら、「代替プラスチックの原材料」や次世代エネルギー源となる「水素」を作り出すという画期的な研究開発が行われているのです。
(出典:NEDO)
「人工光合成」の研究には、国家プロジェクトとして、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)や三菱ケミカル、TOTO、パナソニックといった民間企業、東京大学、東京工業大学が参加しています。
これらの研究グループは、2018年11月28日に、銅錯体とマンガン錯体から構成される光触媒を作成し、可視光を照射することで、「二酸化炭素」を一酸化炭素やギ酸へ高効率に還元できること見出しました。
今回の成果は、大規模に人工光合成を実現するための第一歩になるとしています。今後は、新光触媒の機能を向上させると共に、地球上の多量に存在する安価な水を還元剤に用いる半導体光触媒との融合を目指す方針です。
世界で日本がトップレベルの技術的な優位性を持つ光触媒と人工光合成
人工光合成が特に注目されているのは、日本が技術的な優位性を持つ分野であるためです。
人工光合成は、光触媒を利用して「水」に太陽光を当て、「酸素」と「水素」に分解します。
光触媒とは、太陽光エネルギーを化学エネルギーに変換する機能性材料のことです。
光触媒は、電気が不要なので製品のコストを低く抑えることができます。
日本はこの光触媒技術で世界に先行してトップを走っています。
(出典:NEDO)
光触媒における日本の研究開発の歴史は古いです。
1970年代初めに東大・大学院生だった藤嶋昭氏(現・東京理科大学栄誉教授)とその指導教官だった本多健一助教授(故人)が、水に浸した酸化チタンの結晶酸に紫外線を当てると、水が分解されて水素と酸素が発生する「本多-藤嶋効果」(ホンダーフジシマ効果)を発見したことに始まります。
この「本多-藤嶋効果」(ホンダーフジシマ効果)は、いつノーベル化学賞を受賞してもおかしくない大発見と言われています。
海外の多くの国では光触媒の研究を断念し、太陽電池の開発に進みましたが、日本では「光触媒」の発見から50年以上経って、「人工光合成」という形でようやく実用化の目途が見えてきたのです。
その後、2000年代に入り可視光吸収型光触媒が発見され、多くの研究開発が進むようになりました。
太陽光は光触媒を活用することでエネルギー源として有効に活用することが可能です。
今後はより高性能な酸素生成光触媒の開発に注力し、研究で得られた水素生成光触媒と組み合わせることで、太陽光エネルギー変換効率10%の達成を目指す方針です。
人工光合成も日本が世界に先駆けて技術的に強い領域で、将来的な産業化の中で優位性を生み出すことができると期待されています。
人工光合成のプロジェクトには、総額150億円もの国家予算が投入され、2021年には実用化に向けて開発が進行中です。
光触媒と人工光合成で環境問題とエネルギー問題を同時に解決する!
人工光合成のプロジェクトを率いる瀬戸山亨氏(三菱ケミカル株式会社執行役員)は、「光触媒」の研究をしていた東京大学の研究者の論文を読んで「この技術は化ける」と直感したそうです。
もちろん、発生する水素と酸素を安全に分けることなど、まだ克服すべき課題はあります。
しかし、瀬戸山亨氏は「時間はかかるが、日本を救うなら、こういうとんでもない技術が化けなければいけない。誰かがやらないと、地球が壊れちゃうんですよ」と熱い思いを語っています。
この技術が完成すれば、環境問題とエネルギー問題を一挙に解決できる可能性を秘めています。
何故なら、地球上の二酸化炭素を削減しながら、石油資源に頼らずにプラスチックやゴムを製造できるからです。
実は、この新技術の実用化は、日常生活の中に取り入れられる一歩手前の段階まで来ています。
沖縄・宮古島では、屋根に備えつけた「人工光合成ハウス」の開発が進んでおり、2019年から実証実験が始まる予定です。
「人工光合成ハウス」の屋根には光触媒が入ったアクリル板が取り付けられ、二酸化炭素が溶けた水を流し込んで、太陽の光を当て、次世代エネルギーを作り出します。
それを利用して、家電を動かす電力を生み出す、というエコな循環型のハウスの建築を行っているのです。
2030年頃には、商用化され、一般社会に普及していくことが想定されています。
(出典:NEDO)
21世紀は、環境問題の分野で大逆転が起こるかもしれません。非常に楽しみな技術です。