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ビート・ホールディングスを巡る買収騒動 「ノア」VS「Wowoo」VS「マッコーリー」(前編)




8月23日のプレスリリースで、ビート・ホールディングスは、マッコーリー銀行(投資銀行、証券業務・M&Aコンサルティングなど)に対する第三者割当による新株予約権の発行を関連技術開発の資金調達のために選ぶ用意があることを発表しました。

本新株予約権の最終的な発行数は、ビート・ホールディングスが発行前に決定しますが、現在の発行済普通株式総数の約48.78%に相当します。

そこで、今回のような複雑怪奇(!?)な状況を整理するためにも、基本的な資金調達や買収に関する事柄を整理しておきたいと思います。

まず、ノアとWowoo、マッコリーとビート・ホールディングスの間には、「新株予約権と買収、資金調達の仕方」について学んでおくことが重要になります。

これらを知っておくことにより、今後、ビートの株価が上がるのか、下がるのか、も各々が自己判断しやすくなることでしょう。

新株予約権とは何か?

新株予約権とは、予め設定された条件(時期、株価など)で、将来、新株を購入できる権利のことを示します。

新株予約権には

①社内の役職員に対して付与するもので、「ストックオプション」という名称で用いられます。

②社外の法人や個人に付与するものとして用いられます。

の二つの種類があります。

①ストックオプションは、社内幹部や役員のモチベーション向上のために発行するもので、自社の株価が200円だったとすると、彼らに株価500円で30000株買える権利を付与する、といった形を取ります。

すると、近い将来に株価が500円を超えて、例えば900円になった時に、権利行使をすることで、900-500円=400円の差益が生まれ、400円×30000株(購入株数)=1200万円の利益が発生することになります。

このような目標を達成するための刺激、誘因が与えられると、仕事の評価や業績拡大のために、仕事のモチベーションが向上することにつながります。

株価が上がることで、新たに大きな利益を享受するチャンスをもらえるので、社内幹部や役員が頑張る原動力となるのです。

尚、このストックオプションは、権利行使をしなくても構わないので、株価が下がっても損をすることはありません。

②社外への新株予約権の発行

社外への新株予約権の発行は、主に資金調達を目的として行われます。

新株予約権が発行される場合、権利を与えられる法人や個人が有利な発行価格が設定されます。

なぜなら、資金繰りに困った企業が、現在の株価よりも割安な株価で発行することを条件に、資金を調達できるようにしている場合がほとんどだからです。

新株予約権の発行後に、資金調達が確実に出来るように(新株予約権が権利行使されるため)、株価が上がるようなサプライズの好ましい情報を発表してくる場合もあります。

ところが、サプライズ情報によって、株価が上昇した後で、権利を与えられた法人や個人が新株予約権を行使して、株式を大量に売却し、株価が大きく下がることも多いです。

新株予約権を発行する企業としては、返済の必要のない資金の調達が出来るメリットがあります。

その反面、株式の大幅な希薄化が起こり、付与した新株予約権の発行価格が現在の株価よりも低い状態だと、失望売りを招く危険性もあります。

この場合、新株予約権を新たに付与されても、それ以前の株価を下回るようでは投資家にメリットはありません。

新株予約権を行使できないばかりか、過去の時点で保有していた株式を低い価格で損切りして売りに出すことも考えられます。

新株予約権が、有利な資金調達手段として評価され、既存の株主にネガティブな影響を与えない好ましいケースもあるので、投資家はしっかりと新株予約権発行に関する内容を精査する必要があります。



TOBとは何か?

TOBとは「株式公開買い付け」のことを示します。

目的の銘柄の 「株式」 を取得するために、その買付内容を 「公開(宣言)」 し、証券取引所を通さずに不特定多数の株主から買い付ける行為をTOB(株式公開買い付け)と呼びます。

一般に、TOBは「不特定かつ多数の者に対し、公告により株券等の買付け等の勧誘を行い、市場外で株券等の買付けを行うこと」と定義されます。

例えば、TOBを利用する場合には、証券取引所を通さず、不特定多数の株主に対して、「300円」の株価 で「50万株数」の取得を目標に「9月1日」までに買い付けます、と宣言します。

基本的には、TOBで発表される「株価」「市場で取引されている株価」より高く、付加価値(プレミアム)価格を数十%上乗せした株価で発表されます。

というのも、市場価格よりも高い「株価」でTOBによる買い付けをすることにより、対象株の既存保有者は 市場で売らずにTOBで宣言した相手に売った方が得だからです。

TOBには

①取引所から地道に買い集める必要がなく、大量の株式を取得する機会を手に入れる。

②取引所を通して一気に大量の買い付けを行うと株価もすぐに上昇してしまう懸念がある。

③売り買いの需給で売買されている取引所と異なり、「一定の株価」で株式を取得することが出来る。

④買収に必要な総資金額の予想を立てやすい。

⑤買い付けた株式が予定数まで達しなかった時は、TOBの取消し(キャンセル)が出来る。

⑥取り消し(キャンセル)で株式の返却が出来るので中途半端に取得して損失を被る危険性がない。

というメリットがあります。

一方において、TOBには、「今から特定の銘柄の株式を買い付けます」と、宣言するので、敵対的な買収が目的の場合は、買収対象企業に株式の取得に対する防衛策を講じられる可能性が高まる、というデメリットがあります。

TOBが目的とする「M&A」は「Mergers(合併) and Acquisitions(買収)」の略称で、「企業の合併と買収」という意味で使われます。(「買収&合併」=「M&Aという意味です)

合併と買収の違い

合併とは、それまで別の会社同士だった2つの会社が1つの会社になることです。合併では吸収合併が主流となっており、合併しようとする会社のうち、1社が残る形で他方の会社が消滅する仕組みみになります。

買収とは、1つの会社が別の会社の議決権株式の過半数を買い取ったり、事業部門の資産を買い取ったりすることを言います。

つまり、一方の会社が他方の会社を支配するために株式を買い取ることを意味します。

「A社がB社を50億円で買収する」といった場合、B社はそのまま存続します。

B社の株式を持っている株主から、A社がB社株を買い取り、B社の経営権(支配権)を握り、オーナーになるということです。

B社は残りますが、A社が買収する際に、どれだけの比率(%)の株式を買い集めるかによって、A社のB社に対する支配力が変わってきます。たくさんの株式を買い集める程に、支配力は高まります。

ごく普通にA社が現金でB社の株式株を買うという買収方法だけでなく、現金の代わりにA社の株式をB社の株主に与えるという買収方法もあります。これを株式交換による買収を呼びます。

買収するとA社はB社の経営権(思いのままに動かせる支配権)を手に入れるので、A社がグループを再編するなどの理由で、A社の子会社とB社を合併させて、B社が消滅するというケースもあり得ます。

もしも、買収したいA社が、B社の株式の3分の1(33%)以上を取得すると、株主総会における特別決議の拒否権が付与されます。

また、A社がB社の株式の50%以上を取得すると、言い分が全て通るので、完全に「経営権」を握ることになります。

ポイズンピルとは何か?

ポイズンピルは、「毒薬条項」とも呼ばれています。敵対的買収者としての他社が現れ、特定の企業を買収しようとしても、それを阻止できる手段として考えられたものです、大量の株券発行などがそれに該当します。

具体的には、敵対的な買収に対する防衛策として、既存株主にあらかじめ買収者のみが行使できない権利を与えることになります。

既存株主に対して「新株予約権」を与えておくことが多い傾向にあります。

これにより、敵対的買収者が会社の株式の一定数を買い集めた際に「ポイズンピル」が発動し、既存株主に有利な条件で新株が発行されます。

既存株主にとって有利な条件で付与されるので、株主はこの新株を買うこととなり、結果的に買収者の保有する株式のシェア(持ち株比率)が低下するという結果につながります。すると、買収する側が手を出し難くなることになります。

このような場合、買収する側は「ポイズンピル」を発動させないで、過半数の株主の賛同を得る方法を考える必要があります。

アメリカでは、ポイズン・ピルが20年前から採用されており、現在では6割の企業が導入していますが、実際に発動された例はありません。日本でも日本版のポイズン・ピルを導入する企業が増えています。

ゴールデンパラシュートとは何か?

ゴールデン・パラシュートは、「金の落下傘」とも呼ばれ、敵対的買収に対抗する防衛策の一つです。

M&Aおいて、買収ターゲットとなる企業の経営陣や役員が買収に際して、彼らが解任または退任する、あるいは権限を限定される場合に、巨額の退職金または一定期間の高額報酬が支払われるような契約を予め会社と結んでおくことを言います。

これは、敵対的買収者により、経営陣や役員が解任や退任などに追い込まれる事態を想定し、敵対的買収が行われた場合には、巨額の退職金などが支払われる仕組みを設け、買収時に多額の現金の流出を招くことによって買収コストを引き上げ、買収者との交渉材料として活用する対抗措置となっています。

これによって、買収する側は買収後の出費を予想し買収を諦める、といった予防効果が見込まれます。通常、ゴールデンパラシュートに使われる退職金の額は取締役の給料の3倍程度とされています。

ゴールデン・パラシュートという名前は、買収によって乗っ取られた企業から脱出する手段として、お金をパラシュート(金の落下傘)に見立てた表現に由来します。なお、似たような仕組みで、従業員を対象とするものを「ティン・パラシュート(錫の落下傘)」と言います。

ホワイト・ナイトとは何か

ホワイトナイトとは、敵対的買収から救ってくれる企業です。

2005年に、ディスカウントストアである「ドン・キホーテ」が、次世代型コンビニエンスストアの事業化を計画しました。そこで、オリジン東秀の株式を取得し、敵対的買収を狙っていました。ところが、オリジン東秀は、ドンキホーテの買収を嫌がり、「イオン」に助けを求めたのです。

このケースでは、オリジン東秀が、ドンキホーテに買収されそうになった時に、ホワイトナイトとして現れたのが「イオン」となります。結果的に、「イオン」が「オリジン東秀」を傘下に収めた後、オリジン東秀は急成長し、店舗数は急速に拡大しています。

グループ企業として、オリジン東秀の商品力(キッチンオリジンで作った弁当など)とイオングループの流通網(スーパーに限らずドラッグストア含む)を掛け合わせたことで、絶大な相乗効果を生み、安定した利益を生み出すこととなりました。

両者の健全な思いやりの精神が、企業活動を後押しし、消費者にも支持されたお手本のようなケースです。

その一方で、敵対的買収は、上手く行かない場合が多いです。ライブドアによるニッポン放送買収劇もそうでした。フジテレビの経営権を取得したいがために、親会社であるニッポン放送の株をライブドアが買い占め、世間が大騒ぎとなりましたが、その過程でSBIが登場しました。

ニッポン放送が保有するフジテレビ株をSBIが貸株をして受け取り、フジテレビに対しての議決権(経営権)をニッポン放送から剥がしたのです。これにより、ライブドアはニッポン放送を買収してもフジテレビの経営権は握れないというジレンマに陥り、結果的はSBIがホワイトナイトとして助けたという結果に終わりました。

これらを踏まえて、いよいよ本題のビートを巡る買収騒動の案件について考察していきます。

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