イギリスEU離脱

コラム

イギリスがEU離脱から離脱すれば、関税同盟や北アイルランド国境という最大の難問に直面!イギリスは国民再投票を実施するのが最善の策!




イギリスが輩出した伝説的なロックバンド、クイーン( Queen)の映画「ボヘミアン・ラプソディ」が大ヒットしています。

この4人組のバンドによる生き様が世界を変える程に素晴らしく、感動のストーリーを何回も見ようと映画館に足を運ぶ人も多いようです。

クイーン (Queen) は1973年にデビューし、イギリス、アメリカ、日本を中心に世界中で成功しました。

アルバムとシングルのトータルセールスは3億枚以上とされており、「史上最も人気のある100のロックバンド」で第3位と高評価されています。

この偉大なクイーン (Queen) の映画が、さぞイギリスでも話題になっているであろうと思っていたのですが、実際には1991年に死去したリードボーカルのフレディ・マーキュリーの自宅には海外のファンばかりが観光に訪れています。

では、イギリス人はクイーン( Queen)の映画に興味がないのかというと、そういう訳でもありません。

それ以上に、喫緊の課題(イギリスのEUからの離脱)に必死で取り組んでいるのが実状なのです。

なぜイギリスの国民投票でEU離脱が支持されることになったのか?

イギリスでEU離脱への支持が高まった理由として、

・2008年のリーマンショック後、他国から移民が急激に増えたこと

・イギリス国民の失業者が「職を奪われている」という不満を高めた

・シリア内戦が長期化し、難民対策やEUの分担金の予算配分にも不満が生じた

ことが挙げられます。

このため、当時のキャメロン首相は、2016年6月23日にEU離脱の是非を問う国民投票を行いました。

その結果は、

離脱派:52% 残留派:48%
投票率:71.8% 約3000万人以上が投票

という形で国民の意見が完全に真っ二つに分かれる際どいものとなりました。

とは言え、EU離脱派が勝利したという事実を覆すことは出来ません。

こうしてイギリスはEU(欧州連合)から離脱することが決定したのです。

このBritain(イギリス)とExit(退出する)という言葉を組み合わせた造語をブレグジットと呼びます。

国民投票の後、「やっぱりEU(欧州連合)から離脱するべきではなかった」と後悔する人々が続出し、ブレグジット(Brexit+Regret(後悔))と表現しているとも言えます。

「まさか本当に離脱を望む人々の票が、EU残留派を望む人の票を上回るなんて!!」という衝撃の事態となってしまったのです。

その後、イギリスはEU(欧州連合)からの離脱をめぐる合意手続きに悪戦苦闘し続けています。

そして、上手く折り合いをつけて離脱できるかどうかの最終期限が2019年3月29日と迫っています。

もし、イギリスとEU(欧州連合)が離脱交渉で合意に至らず、何の取り決めもないまま離脱することになった場合には「合意なき離脱」となります。

双方の離脱交渉はなかなか進展せず、2018年の夏頃には「合意なき離脱」が現実味を帯びるのではないかと不安視されていました。

経済・金融にとって極めて危険性が高いイギリスの「合意なき離脱」

イギリスとEU(欧州連合)のどちらにとっても、「合意なき離脱」は大きなリスクを伴います。

その具体的な内容は以下の通りです。

1.イギリスとEU(欧州連合)の間で関税が復活し、過去20年間なかった税関手続きが開始

2.通関手続きで物流が滞り、輸入する物資を運ぶトラックの長蛇の列ができる

3.原材料の調達や製品の供給、販売などサプライチェーンに影響が及ぶ

4.イギリスで輸入するための時間が長引き、商品の品切れや物価の高騰が発生する

4.混乱を避けるため、イギリスに拠点を置く工場が生産を停止、企業は海外に出て行く

5.金融機関はイギリスの免許だけではEU(欧州連合)で金融サービスを行えなくなる

6.食品小売大手各社は、イギリスが生鮮食品の多くをEU加盟国に依存していると指摘

7.「合意なき離脱」の最悪の事態に想定した冷静な対応が求められる

特に、多くの生産活動や労働者の雇用と直結している自動車には10%の税金がかけられます。

自動車メーカーの代表格であるBMWは、イギリスの主力工場での生産を離脱後1か月間停止すると発表しました。

航空機の運航は1年間現状を維持することになっており、イギリスと他国を結ぶフライトが突然中断することはなさそうです。

イギリスのEU離脱は欧州に進出する日本企業にとっても多大な影響を及ぼす

日本の企業にとっても、対岸の火事ではありません。

・イギリスには日本企業が約1000社も進出している

・この中で「合意なき離脱」への対応策を講じている日系企業は3割に満たない

・日本の自動車メーカーはEU諸国から部品を調達している

ので、影響はかなり大きくなります。

イギリスを中心としていた統括機能をドイツ・オランダ・ルクセンブルクに移転することを決めた日系企業もあります。

その一方で、イギリスの工場において、

・ホンダは2019年4月に自動車の生産を6日間停止

・日産は高級車のインフィニティの製造を止める

と発表しました

こうなると確実にイギリス国民の暮らしや企業の経済活動に大きな支障をきたすのは間違いありません。

まさに、クイーン( Queen)の「ボヘミアン・ラプソディ」の歌詞の通り、

さようなら皆 - 私は行かなければならない

あなた(欧州連合・EU)を置き去りにして真実に直面しなければならない

ちょうど出て行かなければならない

ちょうどここから出て行かなければならない

とにかく風は吹いている

といった出来事が差し迫っているのです。

イギリス議会で欧州連合(EU)からの「合意なき離脱」反対案が可決!

3月13日、イギリス議会は「イギリスが欧州連合(EU)と合意なく離脱することに反対する動議を可決」しました。(賛成321、反対278で可決)

つまり、イギリス議会は、欧州連合(EU)からの「合意なき離脱」を否決したのです。

このため、3月末に予定されていたイギリスのEU離脱が「延期」と言う形で先送りされ、経済の大混乱を避けられる兆しが見えてきました。

3月14日、その可決案を踏まえて、欧州連合(EU)からの離脱時期を3月末から先延ばしするかどうかを採決します。

市場関係者は、イギリス議会が「延期」を決定すれば、欧州連合(EU)との交渉次第で、離脱は少なくとも2ヶ月~3ヶ月の先延ばしになると予想し、イギリス通貨・ポンドが上昇しました。

その短い期間のうちに、イギリス議会の離脱強硬派が軟化して、最終的に円滑な「合意ありの離脱」になると先読みしているのです。

さらに、イギリスのメイ首相が辞任し、「国民投票の再実施」あるいは「内閣総辞職・総選挙」が行われ、イギリスのEUからの離脱(ブレグジット)が撤回されるという楽観論も浮上しています。

ただし、こうした楽観論は、あくまで金融市場の見方であり、理想や希望に過ぎません。

2016年の国民投票の結果は非常に重いです。

イギリスがが大混乱に陥って、大勢の市民が再投票を望むのでなければ難しいでしょう。

EUはイギリスに不利な離脱させることで加盟国への「見せしめ」にしたい

現実的には、3月21日~22日に行われる欧州理事会(EU首脳会議・27ヶ国が参加)で、イギリスの「EU離脱延長」を認めるかどうかについて、激しい交渉が行われるでしょう。

ここで、イギリスの離脱申請を受け入れるのか、受け入れるのなら延期日は「いつまでか」が最終決定されます。

もし、「EU離脱延長」が認可された場合でも、「イギリスの意向を尊重した合意」あるいは「国民投票の再実施」に対して欧州連合(EU)が譲歩するのは困難な状況です。

ドイツのメルケル首相も、フランスのマクロン首相も、イギリスの要望に応える様子はありません。

そもそも、欧州連合(EU)から離脱しようとしたイギリスに協力できる程、お人よしでもないし、そんな余裕もありません。

イギリスのメイ首相はEUと交渉して、合意していきたいのですが、欧州連合(EU)はイギリスに対して甘い顔を見せることは絶対に出来ないのです。

その理由は、イギリスを優しく許容するよりも、5月24日~26日に行われる欧州議会選挙で、欧州統合の重要性を勝ち取ることの方が優先順位が高いからです。

【更新情報】4月21日、イギリスを除く欧州連合(EU)首脳27カ国は、英国のEU離脱の延期を巡って協議されました。

その結果、イギリスとEUがまとめた離脱合意案を

a,イギリス議会が可決すれば5月22日まで

b,可決できなければ4月12日まで離脱を延期

することで合意したのです。

EUは、欧州議会選挙もあり、イギリスのメイ首相が提案した6月末までの延期案は却下しました。

ところが、離脱延期にも一つのハードルがあります。

メイ首相は、「EUと合意した離脱案を国民に届けることに全力を注ぐ」と語りましたが、

3月末に予定するイギリス議会でイギリスとEUがまとめた離脱合意案が可決されるかどうかにかかっています。

離脱案が否決された場合

1.EUとの合意なき離脱

2.長期間に渡る離脱の延期

のどちらかになります。

どちらに転んでも、無秩序な混沌状態となるため、イギリス議会としては、イギリスとEUがまとめた離脱合意案にOKを下すかどうかに大きな焦点があたります。

離脱方針を巡って意見がバラバラで分断しているイギリス議会が、一つにまとまるかどうかが注目を集めています。

イギリスのメイ首相が提案した離脱合意案は、過去に2度に渡ってイギリス議会で承認を得られていません。

一方で、EU側は、イギリス議会で3度目の採決でも否決された場合に備え、英側にこれ以上の議論の先延ばしをしないよう、期限を4月12日という日付に区切ってきたのです。

イギリス議会が、イギリスとEUがまとめた離脱合意案を可決した場合、EUは5月22日までの離脱延長を認めることになります。

EUは5月23~26日に欧州議会選挙を控えています。それを越える離脱延長は、欧州議会選にイギリスが参加する必要があるとの見解から5月22日を最終延長期限と区切ることにしました。

一方で、イギリスのメイ首相は、EUからの明確な離脱を実現するため、欧州議会選への不参加を表明してきました。

EUは5月末までの離脱延期で、円滑な離脱に必要な法的整備の時間は十分確保できると判断しています。

この場合では、5月22日から当面、英とEUの関係を現状のまま維持する「移行期間」が発動するため、企業などはEU離脱に必要な準備の時間を確保しやすくなると予想されています。

イギリスに限らずEUでは自国優先主義のポピュリズム(大衆迎合)が蔓延

現在、欧州連合(EU)に対する懐疑論の風が強まっています。

そうした雰囲気を打ち砕くためにも、フランス、ドイツ、イタリアが右傾化し、ポピュリズム(大衆迎合)が蔓延するのを防ぎ、EUが掲げる「加盟国が一つにつながり、自由に交流し合う」という理念を維持していく必要があります。

もし、5月の欧州議会選挙で「欧州人民党(EPP)」と対立する極右勢力が強くなってしまえば、EUの弱体化あるいはEU分裂の危機すら生じる可能性があります。

欧州連合(EU)は、イギリスのEU離脱について、メイ首相が29日の離脱期日の延期を求めてくることを想定しています。

イギリスが正式に延期を要請した場合、それが実現する条件はEUに加盟する27ヶ国全ての同意・満場一致が不可欠となります。多数決では決まりません。すなわち、1ヵ国でも反対があれば、却下になります。

ところが、今まで27ヶ国全てが一同に集まって、この問題を実際に討議したことはないと報道されています。

また、仮にEU加盟国の主流な立場に異を唱える国が出てきたとすれば、その国は他の加盟国から厳しい目で見られることを覚悟しなければなりません。

「EU内での主流な立場=加盟国が一致団結していること」は、欧州議会選挙で事なきを得るための必須条件なのです。

そうした調和を乱す国は、EUにとって不都合な厄介者扱いされたとしても不思議ではありません。。

EU加盟国のイギリスに対する態度は、過度な自国優先主義を抑え込みたい穏健派にとって、今後も同じベクトルを向いて協調できるかどうかの大きな指標となるのです。

イギリスのEU離脱をややこしくする「関税同盟」とは何か?

関税同盟とは、加盟国間での貿易で関税をなくし、加盟国以外からの輸入品に共通関税を設定する同盟を意味します。

つまり、EU内に残っている限り、イギリスは加盟国としての関税についてのメリットを享受できます。

しかし、EU離脱によってイギリスが関税同盟を抜けると、EUへの輸出品に関税が復活します。

特に製造業などの企業活動に影響を及ぼす可能性があります。

製造メーカーなどにとって、イギリスとEUの間の輸出入で高い関税がかかる事態は、イギリスに生産拠点や工場を置くなどのメリットは失われる懸念があります。

イギリス(メイ首相)とEUがまとめた離脱合意案では、イギリスが事実上は関税同盟に残り、北アイルランドはEU単一市場のルールがそのまま変わらず適用されることになっています。

合意案の内容は、「一時的」とされましたが、具体的な期限は明記されていません。

終了時期はイギリスとEUの双方が決めることになります。

イギリスの与党である保守党内の強硬離脱派は、この安全策を「EUへの隷属」と批判し、イギリス議会で2回の否決を行いました。

その理由としては、

1.関税同盟に残る期限を具体的にいつまでと明記する必要がある

2.イギリスが一方的に終了時期を決められる仕組み作りたい

という意見があります。

イギリスが関税同盟としてのEUから脱退すれば、イギリスとEU加盟国の間で関税が復活します。

その代わりに、イギリスはEUからの脱退で関税率をEUと違う税率に変えることが可能となります。

※WTO(世界貿易機関)やEUと約束した税率に英国は拘束される可能性が高く、関税率を下げることはできても、関税率を上げることは容易ではありません。

そこで、イギリスがEU加盟国と無税での輸出を継続するためにはFTA(自由貿易協定)を結ぶことが必要となります。(※原産地規則を満たす必要あり)

しかし、原産地規則の定義は次の通りですが、 にはいくつかの課題もあります。

1.ある製品がどの国の製品であるかを決定する規則

(貿易商品の原産地がどこの国であるのか「商品の国籍」を判定するためのルール)

2.「商品の国籍」を1カ国に特定することが難しくなっている

(企業活動のグローバル化や水平分業の進展で、複数国の原料・部品を使用し複数国で加工して完成品が出来上がるというケースが増えている)

このような背景から、

1.イギリスはEUとの間で原産地規則を設定しない

(イギリスとEUの間で新しい合意を結ぶ)

2.EU以外からイギリスに入ってくる物品は、最終的な目的地に応じて関税率を決める

(イギリスとEUと英国の間の物品の行き来は自由にしたい)

と考えている模様です。

イギリスのEU離脱の場合は、物品が自由に流通していたところに、法律的な制約を課すことで、今までの慣例に沿わない状況が生まれてきます。

しかし、EUとしては、実行できるか分からない複雑な制度を提案されていため、前向きに取り組みたい事案ではないと言えます。

アイルランド国境問題も、イギリスのEU離脱の高いハードルになっている

北アイルランドは、長い紛争(宗派と帰属をめぐる紛争)を経て、現在、イギリス領になっています。

イギリスはEU離脱の方針ですが、アイルランドはEU加盟国であり続けます。

ところが、イギリス領である北アイルランドとアイルランド島全体は一つの陸続きなのです。

もちろん、イギリスもアイルランドも共に、過去の悪夢の再燃を避けたいと望んでいます。

バックストップ条項とは

EUはEU・イギリス間の長期的な関係が、アイルランド島内の国境管理を必要とする事態に陥らないようにするための保険として、バックストップ条項が必要だと主張しています。

バックストップ条項は2つのことを規定しています。

1.北アイルランドの物品と農産物をEUの単一市場内にとどめ、EU基準に達しているかどうかを確認する検査の必要性は完全になくなる

2.イギリスは明確な境界線を回避する他の方法が見つかるまで、EUの関税同盟内にとどまることになる

条項への反対意見としては、反EU派のイギリス議員からは、バックストップ条項がイギリスを無期限でEUの関税同盟内に封じ込める可能性があると主張しています。

その内容は、

a.イギリスが将来的にEUの束縛から逃れることを巡ってEUが拒否権を発動することを可能にする

b.イギリスによる独自の貿易合意締結を実質的に阻止してしまう恐れががある

ということです。

イギリスはバックストップ条項について、

α. 欧州連合(EU加盟国)、イギリス双方にとって扱いにくい項目である

β. EUはイギリスを関税同盟に固定するのを望んでおらず、イギリスも関税同盟に縛られたくない

γ. イギリスは、将来的に締結する貿易協定と新技術で関税は国境なしで済むようになる

と判断しており、長期的にはバックストップ条項が不要になると予想しています。

同時に、短期的にもバックストップ条項は必要ないとして考えています。

その理由として

イギリス・EU合意案に基づくイギリスのEU離脱後の移行期間には、イギリス・EU関係が現在と同様の状態に置かれることを表明

しているからです。

この移行期間は2022年末まで延長可能となっています。

メイ首相はバックストップ条項を含む合意内容の再交渉を望んでいませんが、もしEUと再交渉となれば、一連の課題について収拾のつかない事態を引き起こす恐れがあります。

メイ首相にとってEUから獲得し得る最大の成果は、イギリスを除くEU加盟27カ国から、

バックストップ条項は必要でなく、もし仮に必要だとしても短期間だとの内容を盛り込んだ見解

を勝ち得ることです。

イギリスのEU離脱をめぐって起こり得る3つのシナリオ

イギリス議会は、欧州連合(EU)からの離脱の延期を、EU側に求める政府動議を賛成多数で可決しました。

メイ首相は3カ月の延期を目指しています。(現実的には5月22日)

しかし、そこには大きな壁が一つ立ちはだかっています。

それは、イギリス議会で「2度も否決された離脱協定案」を3月下旬までに、3度目の採決を行い、可決することを離脱延期の条件にしているからです。

もしも、この離脱協定案が否決されると、イギリス内・EU向けのあらゆる調整が空中分解して、問題解決の出口が見えなくなってしまいます。

そうなると、長期間の延期を要望するしかない訳ですが、EUがそれを素直に受け入れるとは限りません。

つまり、イギリスの法律で離脱日と決めた3月29日に「合意なき離脱」となってしまう可能性も消えてはいません。

そこで、今後、起こり得る3つのシナリオを考えてみました。

1.延期なし

イギリスの離脱派強硬派の中には、上記の「2度も否決された離脱協定案」を受け入れたくない議員もいます。

3月20日には結論が出ますが、同じ離脱協定案を3度目で可決される保証は全くありません。

イギリス議会の中の意見が大きく割れているため、EU離脱の議論はさらに迷走して泥沼化する恐れがあります。

さらに、EU加盟国の意見は必ずしも一致していません。

EU首脳会議で折り合えなければ、「いかなる延期も認めない」ということになります。

もし、本当に「合意なき離脱」をすればイギリスは大混乱に陥ります。

イギリスの通貨ポンドは大暴落し、物資の供給や企業の生産活動が停止するなどして、イギリス国民の生活にも大打撃となるでしょう。

そうなると、欧州連合(EU)も相当の非難を受けてしまいます。

当然、このような悪者扱いは避けたいはずです。

3年近く振り回されてきたイギリスのEU離脱の問題は早急に終わらせて、他の重要な事案を処理していきたい、という意見もあります。

2.短期間の延期

現時点では、5月22日までの離脱延期が一番確率の高いシナリオとして浮上しています。

それは、欧州議会選挙が実施される5月23日~26日辺りを期限の目安としているからです。

ユンケル欧州委員長は、「イギリスはどんなに遅くても5月23日までに離脱する必要がある」と発言しています。

また、EU圏のある外交官は、「離脱の期限を欧州議会選の投票日より後まで持ち越すのは非常に危険」と述べています。

ただし、短期間だけ離脱を延期したところで、解消されなかったイギリスの政治的停滞を解決できるとは考えにくいです。

イギリスでは、EU離脱の在り方について内閣・議会・国民の見解がバラバラに分断しています。

だとしたら、たった2ヶ月弱延期したところで何が変わるのでしょうか?

一応、イギリスとしては6月末までの延期を希望しています。

フランスのマクロン首相は、イギリスの離脱延期の承認に厳しい態度を示し、ドイツのメルケル首相は、混乱を避けるために離脱延期を承認するのであれば長期間を望んでいます。

3.長期間の延期

欧州議会・欧州委員会の権威を保つため、あるいは、法的に問題視されないためにも採用したくない選択肢です。

とは言え、長期化する可能性を排除できない事情もあります。

EUのトゥスク首脳会議常任議長は、イギリスが離脱戦略を練り直したり、総意を得たりする必要があると考えるなら、27の加盟国全てに「長期の離脱延期を受け入れるよう求める」とツイッターでコメントしています。

具体的には2019年末もしくは2020年末まで離脱を延期すべきという話が出ています。

長期間の延期となった場合、

1.イギリスが2回目の国民投票もしくは総選挙を実施  →  最終的にはEU離脱が撤回される

2.イギリスがEUとの交渉をやり直し、離脱後にEUとの関係をより親密にする方向性を選ぶ

という風にイギリスの態度が欧州連合(EU)にとって都合の良い形に収まる可能性も生じます。

1.の選択肢は、実はEUにとって最も都合が良く、イギリスのEU残留を決める国民投票の再度の実施、ひいては離脱自体の取り止めとなることを意味します。

2.の選択肢は、メイ首相の譲れない一線が後退することを意味するので、「内閣総辞職・総選挙」となる事態も十分に考えられます。

現状のままイギリスがEU離脱をすると、北アイルランドの国境管理やEUの関税ルールに残留するかどうかという問題が生じるので、懸案の課題はそのまま残されることになります。

長期間の延期については、EU側に一歩も引かない強気の反対派も存在します。

何故なら、

1.欧州連合(EU)側に大きなリスクとコストをもたらす

2.何年にも渡って欧州連合(EU)とイギリスに不確実性を持続させる

3.別の目的に向けるべき時間、資源、エネルギーが浪費される

4.欧州議会にユーロ懐疑派が増えて、イギリスが離脱した後も強い発言力を与える

ことを恐れているからです。

イギリスのEU離脱の問題は、まさに現在進行形で起こっています。

イギリス議会が一致団結できるか、欧州連合(EU)が足並みを揃えられるかでイギリス国家の行方が決定します。

二転三転していくことになる今後の状況を見守っていきたいと思います。



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