経済ゼミナール

10.消費税増税と法人税減税は国民の暮らしや少子化にどんな影響を及ぼす?




消費税増税と法人税減税は国民の暮らしや少子化にどんな影響を及ぼす?

 

今から約12年前、民主党の菅首相のブレーンだった大阪大学の小野教授は、「増税による雇用の創出」を唱えていました。

政府に入ってくるキャッシュの量が安定して多くなれば、福祉、医療、介護に回せるお金が増えて、景気対策を打ちやすくなる、という目論見だったようです。

それと同時に、「法人税は減らすけれども、消費税を上げる」という企業への優遇措置を色んな方(学者、官僚、政治家など)が唱えていました。※現在もそう主張する連中がいます。

法人税負担を減らすことで、企業は設備投資を増やし、賃金を上昇させ、人を雇いやすくなる、という期待もあったのでしょう。

ところが実際には全くそうはならなくて、一般庶民、特に普通に働いている労働者へのシワ寄せばかりが際立つことになっちゃいました。

消費税は、1997年から一律で5%だったのですが、「税と社会保障の一体改革」という名目で、2014年4月に8%になり、2019年10月には10%(軽減税率8%)へと大きく増税されてしまいした。

その2回の増税後は、国内景気を中心にかなり冷え込みました。でも、インバウンド需要や海外への輸出などが追い風となってコロナ前までは企業業績は何とか順調に回復していたのです。

しかし、賃金アップと雇用の創出は上手くいったのか、と言われればそうはなりませんでした。

消費税増税と法人税減税の組み合わせに対する結論だけを言うと、「企業が払わなくて良くなった減税分のお金を溜め込んでしまう」という結果になってしまいました。

これを企業の内部留保と呼んでいます。

その額は2022年末時点で、なんと過去最高の530兆円!に達しました

政府としては、貯め込んだ内部留保を設備投資や賃金アップに使うように求めたけど、企業側は慎重な姿勢をなかなか崩そうとしませんでした。

2012年12月26日に第2次安倍政権が発足してから、約10年間で200兆円以上も企業の貯め込みが起こってしまったのです。

それに比べて、労働者の実質賃金は目減りしている状況が続いています。

企業が稼いだ利益をそのまま新規の正社員雇用や賃金アップに結び付けるお金の使い方をしてくれるかと思ったら、実際には間逆になってしまいました。

企業の利益は大きく改善しているのに、現金を貯め込み、人件費に回さないのです。純利益に占める配当の割合も平均31%と欧米に比べて半分程度に過ぎません。

もっと大胆にお金を使える環境作りが欠かせないのに、「人口減少で将来は低成長が続く」「円安や原油安もいつ揺り戻しがあるか分からない」といった、今ここにある現実ではなく、まだ起こってもいない未来への妄想的な不安で、「いざという時に備える」ことを優先してしまったのです。

心理学的な観点では、「日本国内の中長期に渡る前向きな成長イメージが持てていない」ということが原因です。

ぶっちゃけて言いますと、「企業が安定的な雇用を維持しようとする意欲があまりない」のが本当のところです。

この背景には、1995年当時の日経連(現在の経団連)が「新時代の日本的経営」の中で、非正規雇用を多数とする労働者の階層化を提言したことが根底にあります。それがそのまま、労働者雇用の不安定さに結び付いているのです。

この提言と、働いている人の「所得給与の減少」が続いていることは明らかに連動性があります。

もしも製造業の内部留保1%を使えば、失業者40万人を1年間雇用できる、という説も出ています。

2023年5月の時点でも、財源を議論する政府会議メンバーの十倉雅和経団連会長が「消費税を排除するべきではない」との考えを示しました。これに対し、丸山島根県知事は、「経団連の会長の言っていることを聞いていたら日本は滅びると思う」と発言しています。

十数年に渡って、こうした構図が全く変わっていないので日本はどんどんと衰退しています。

ズバリ、日本最大の問題は「お金がなくて貧乏なのではなく、お金を使わなくて貧乏になっている」ことなのです!

使われていない余剰資金は数百兆円以上ありますが、「安心・安全を提供する方向性」にはお金がきちんと流れていません。

経済成長を本当に求めるならば、雇用者全体に占める割合が38%、20代では2人に1人となっている「非正規労働者の待遇改善」に念頭を置くべきです。

なぜなら、雇用が不安定な上に年収が200万~300万円くらいでは、将来に対する不安は拭えないし、結婚やマイホーム購入、出産の決断を含めて、消費の活性化は到底望めません。

そのためにも、非正規社員を正規社員に転換する制度が必要です。例えば、そこに消費税の増税分を投資するならば、誰も文句は言えないでしょう。政府は増税ばかり考えず、そうした視点を持って政策を打っていくべきです。

健全な形で内需が拡大すれば、わざわざ海外への輸出(=外需)に頼って、為替に一喜一憂する必要はなくなります。はっきり言って、3期目の習近平政権の中国とは、経済安全保障の観点からも積極的に関わるべきではありません。

むしろ、技術革新を通じて国内需要の拡大を目指す方向に向かうべきです。

日本は所得の低い非正規社員の数が約4割もいるのだからあまりにもひどすぎます。これでは、日本国家全体の持続的な経済成長や総合的な税収増加には絶対につながらないです。

その一方で、今現在の大企業の社長・会長クラスの給与は一年間で数億円に達すると報道されています。彼らの頭の中はどうなっているのでしょう?

「所得の再分配」あるいは「格差の是正」を目的として、非正規労働者の待遇改善(もしくは正社員化)を主眼に置く政策こそ、日本の未来を明るくする結果につながるはずです。

彼らの地位が安定し、所得が大幅に向上すれば、結婚する若者が増えて出生率も自然に高まることでしょう。

その時にはじめて、総合的な税収が増加して、財政の健全化の議論を行う余地が生まれてくると考えています。

経済成長の入り口をどこに持って行くは、これからも、打ち出す政策が成功するか、失敗するかの重要な分岐点となります。

いつまでも「企業栄えて民滅ぶ」あるいは、「小作人と本百姓」のような労働階級の固定化、差別化が残っていると、日本経済はますます駄目になっていきます。

政治思想として、弱肉強食の「新自由主義」は確実に終焉を迎えつつあります。

これからは、「修正資本主義」「公益資本主義」によって中産階級の増加を目指す姿勢が大切です。労働者に対しても、安定的な雇用形態や賃金の増加を最優先に検討するべき段階に来ています。



-経済ゼミナール