お金

経済ゼミナール

2.お金を商品にしてお金を増やす!!




前回、「ドルを持てば持つ程に、お金持ちになっていく」「そういう思い込みを皆が信じている」「ドルの普遍性と権力を信仰している」世界に日本人を含めた私たちは生きている、というお話をしました。

お金が商品になる!!

そこで、如何にして持っているドルの数量を増やすか、ということを、金融に携わっている専門の人々は考え始めたの。物やサービスを商品として売り買いして、お金を稼ぐという方法ではなく、お金そのものを売り買いして、元手のお金を増やすことを考え始めたのね。

具体的に突っ込んで言うと、「通貨価値の歪み」を利用して、「お金の増殖」を図ろうと考えたってわけ。

この方が、在庫リスクや不況による商品の売れ残りなどを心配することなく、またコツコツと働いてお金を増やすこと以外の方法で、大きく収益を得ることができるかもしれないって思ったのね。

一般に、お金が儲かる時っていうのは、「商品を安い時に買って、高くなった時に売る」という大原則があるのよね。
だから、「変動相場制」によって、お金の価値が安くなったり、高くなったりして動くようになることで、「お金を商品として見なす」時代がやってきたわけね。

これを「マネー経済」というんだけど、1980年代までは、「実体経済:マネー経済」の比率が「9:1」だったんだけど、90年代後半には「1:9」に逆転し、そして現在では、「1:30」になってお金の量が増え過ぎてしまったの。だから、モノやサービスを売るよりも、お金を商品とする方が、大きな金額が動くのね。

世界中のお金の流れの9割以上がマネー経済によるものだなんて、ちょっと信じられないけれども、これも「変動相場制」のなせる業。それと、2008年のリーマンショック以降には、アメリカ・EU・日本における中央銀行(順にFRB・ECB・日本銀行)の大規模な金融緩和が関係していると思う。

お金の価値は日々刻々と変わっていくから、そのお金を商品として売買している人達は、儲かったり、損したりして仕事をしているのよね。

業績を大きく左右する企業と為替の重要な関係

お金を商品として売買している人達、つまり金融業に従事している人達は、為替の「変動相場制」によって、お金をたくさん稼ぐことができるので、新たな仕事が増えるしウハウハなんだけれども、普通に会社を経営している人達、特に海外との貿易によってビジネスをしている人達にとっては、都合の悪い話もあるのよね。

だって、為替が1ドル=120円で一定に決まっていれば、「商品がどれだけ売れるか」という数量だけを気にしていれば良かったのに、「変動相場制」でコロコロと為替が動くようになると、いくら商品が売れても利益が上がるかどうか不透明な部分も出てくるわけ。輸出企業にとっては、自国の通貨が安い時に利益がたくさん出せても、自国通貨が高い時に利益が少なくなってしまう。

例えば、日本の輸出企業の場合、1ドル=120円だと予定していたところ、1ドル=130円になって「円安ドル高」に振れれば、10円の為替による「差益」が発生してお得になるの。

ところが、1ドル=120円だと予定していたところ、1ドル=110円になって「円高ドル安」に振れれば、10円の為替による「差損」が発生して利益を失ってしまうの。

逆に、輸入がメインの企業の場合、「円高ドル安」でお得、「円安ドル高」で損になっちゃうのよね。

これでは輸出入業をメインに行っている会社は経営が安定しなくて困っちゃうので、解決策に乗り出すことになったのよね。その具体的な方法がデリバティブ(=金融派生商品)取引と呼ばれるものなの。

デリバティブ取引とは?

デリバティブ(=金融派生商品)取引とは、現物の金融商品から派生した取引のことで、先物取引やオプション取引などがあるの。

「何だ、そんなことか」と思うかもしれないけど、昨今の金融の世界では、デリバティブ取引がとても大きな影響力を持っていて、サブプライム問題が発端となってアメリカ経済に長い間、危機が訪れていたのも、この取引が絡んでいるの。

最先端の金融工学という手法を用いて、デリバティブ取引を最大限に活用することで、アメリカの金融機関やヘッジファンドは今まで多額の利益を生み出してきたのね。

ちなみに、先物取引は、将来の売買についてあらかじめ現時点で約束する取引のことをいうの。日経平均や原油の先物などがあって、その指標を見て、現物の価格が影響されることが多いわ。

オプション取引とは、ある一定期間のうちに、約束の価格で行う権利の売買のことをいうの。近い将来に価格が上がるか下がるかを予測して、あらかじめその権利を購入しておくのね。

どちらもよく似ているけど、要するに、金融商品の価格が上がるか下がるか「前もって占う力」が大きく試されることになるのね。

これらのデリバティブ取引は、最初は「企業が為替の変動リスクを回避」する目的で作られたんだけど、そういった制度を認可することで、いつの間にか「ヘッジファンドが巨額のマネーを動かす」ことになってしまったのね。

各国の金融市場を揺るがすヘッジファンドの台頭

さて、最初は企業が為替のリスクを回避するために生まれてきたデリバティブ取引だったのだけれども、だんだんと「お金を使ってお金を儲ける」という目的で使われるようになってきたのね。

その代表例がヘッジファンドと呼ばれるお金を運用することを専門とする会社なの。そもそも、少数の富裕層をターゲットにした投資会社なんだけれども、利益が利益を生む構図に誘われて、銀行や保険会社などが本業以上に精を出して、ヘッジファンドにお金を貸し出すことになっていったのね。それは日本の銀行も同じようなことをしていた時期もあって、資金繰りに困っている地元の中小企業にお金を融資するんではなくって、海外のヘッジファドに多額の融資をして稼ごうとしていたのよ。

ヘッジファンドは、お金の価値の歪みに目をつけて、為替だけでなく、農作物や原油、鉱物などにもデリバティブ取引を取り入れていったの。

ヘッジファンファンドは「レバレッジ」(=てこの原理)という手法によって、手持ちの資金の何倍ものお金を運用して、大きな利益を得ていたのね。

ヘッジファンドは1990年代にどんどん強くなってきて、「イギリスのポンド危機」や「アジアの通貨危機」をも引き起こしたのよ。

一国の経済や通貨の価値を、少人数で運用するヘッジファンドが振り回す事態にまで発展したことがあったわけ。つまり、お金の売り買いを通じて、国を相手に戦争を仕掛けるくらいに力を持っていたのよ。

こんな経験が積み重なって、ヘッジファンドの動向を金融市場は無視できなくなってしまったの。

絶対的利益を追求するヘッジファンド

ヘッジファンドは、株価や通貨が上がろうが下がろうが、どちらでも関係なくお金を稼ぐ「絶対的収益」の追求を目標としていたの。

つまり、投資している国の経済が良くなろうが悪くなろうが、儲けさえ出ればヘッジファンドにとってはどうでも良いことだったのね。

特にひどかったのは、1997年に起こったアジアの通貨危機で、ヘッジファンドはタイの通貨バーツに思いっきり空売りを仕掛けて、バーツが大暴落し、タイの経済をボロボロにしてしまったの。

タイで伸び盛りの会社の多くは、銀行から金利の高いバーツではなく、金利の安いドルを借りて、経営資金に当てていたので、バーツが暴落することで、ドルを返せなくなって倒産してしまったのよ。

2000年代前半に金融立国として知られたアイスランドの国民が、金利の高い自国通貨クローナではなく、金利の安い円を借りて、住宅ローンを組んでいたことによく似ているわ。

自国通貨の価値が半減してしまい、急に借金が2倍になってしまったら、返す予定のものが返せなくなってしまうものね。

こんな風にして、ヘッジファンドの「絶対的収益」追求の姿勢が、多くの国々の経済を混乱させてきたのよ。

ヘッジファンドの投機による攻撃は、いろんな国の通貨に対して行われていて、1990年代には、イギリスのポンド、タイのバーツ、マレーシアのリンギット、インドネシアのルピア、韓国のウォンなどが暴落してしまったのよ。この頃はまさにヘッジファンドの全盛時代ね。

不景気・下げ相場でも巨額の富を稼ぐヘッジファンド

ヘッジファンドへの投資額は、日本円で最低1億円以上と高額である場合が多く、参加者は少人数に限られているの。そのため、ヘッジファンド単体の資産規模は一般の投資信託に比べてあまり大きくはないわ。

証券会社や銀行で販売されているような一般の投資信託は、投資についての規制がずっと強くて、情報の詳細な開示が義務付けられているんだけど、ヘッジファンドは、同様の規制は受けず「自由な運用」が可能となっていたの。リーマンショック以降は、金融規制に関する議論がたくさん出てきたんだけど、完全な取り締まりは難しいみたい。

一般の投資信託は「空売り」が出来ないので、下げ相場では資産の価値が低下し、含み損を抱えてしまう場合がほとんどよ。

でも、「空売り」を積極的に利用できるヘッジファンドは、上げ相場でも下げ相場でも利益を上げることができるので、実際に「下げ相場を得意とする」ヘッジファンドも結構多いの。例えば、2004年頃の日経平均は、彼らによって相当株価を抑えられ、多くの投資家は被害を被ったわ。

アベノミクスが始まるまで、日本株が上がりにくかったのも、彼らの空売りから入る行動パターンの影響が大きいのよ。

その一方において、マネー経済の歴史の中では、ヘッジファンドが相当に傷ついた時代もあったわ。

1998年の夏までは「向かうところ敵なし」だったヘッジファンドだけれど、同年の8月に起こった「ロシア危機」がきっかけで、ヘッジファンド全盛時代は急速に崩れ去ってしまったの。

しかもそれは、自らが墓穴を掘った形で、1997年秋の「アジアの通貨危機」が深刻化したことが原因となっているのよ。

新興国はヤバイ・・・、という噂が広がって、タイ、韓国、ロシアなどの金融市場から「投資資金の流出」が起こってしまったのだけど、タイ、韓国では成功したヘッジファンドも、ロシアでは上手くいかなかったのね。



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